感想・解説『カード師:中村文則』”カードをめくる”ということ

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久々にじっくりと小説読んだ気がします。

『カード師』

小説家、中村文則さんによる長編小説で、朝日新聞出版より2021年5月に刊行されました。

朝日新聞の紙面で連載されていたものであり、さらに加筆されたものが単行本として出版となっています。

内容紹介

占いを信じていない占い師であり、違法カジノのディーラーでもある僕に舞い込んだ、ある組織からの指令。それは冷酷な資産家の顧問占い師となることだった──。国内外から新作を待望される著者が描き切った、理不尽を超えるための強き光。新たな代表作、誕生!

https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=22878

新作長編

中村文則さんの新作長編となる『カード師』読みました。

中村文則さんはすごく好きな作家さんの一人で、書店で新しい本が出ていれば即買いしている作家さんでもあります。



作品の傾向は決して明るいとは言えないものが多いのですが、人の本質的な部分に突きつけてくるような作品が多く、読み終わった後にはいろんなことを考えさせられるものが多いです。

登場人物の多くはどこか満たされない”何か”を抱えていることが多く、それゆえに起きる何かであったり、関わることとなる不思議な人や組織なんかとの出来事を描いています。



リアリティがある部分は凄くありながらも、フィクショナルな部分も実はあったりして、それでいて人の深みに迫ろうとしている作家さんだと思っています。

ギリシア神話なども交えながら

今回の『カード師』の主人公となるのはとある占い師の男です。

彼は占い師として生計を立てていて、ある時とある資産家の顧問占い師となることとなります。

彼を占うこととなるのですが、次第に不穏な気配を感じとり、身の危険を感じることとなります。



主人公の青年はとある施設の出身で、そこでの経験なんかも語られながら、ギリシア神話などの話も交えながら進んでいく話となっています。

”ブエル”という悪魔の話が出てきたり、世の中にあるいろんな角度から語られているような話ともなっています。

カードをめくるということ

この作品ではタイトルにもなっている通り、カードという存在が大きな意味を持っています。

オリジナル(おそらく・・・)のカードも冒頭に掲載されていて、このカードも作中で象徴的な意味を持ってきます。



さらに言うと”カードをめくる”という行為にも直接的、間接的な意味を持たせているような気がしました。

”カードをめくる”という行為は、何かが分からない状況から、分かる状況へ変わるということでもあります。



それは、決して自分では全てをコントロールできない要素が含まれていることでもあり、一瞬で大きく何かが変わるということでもあります。

だからこそ、カードをめくるという行為にはある種の狂気的な何かが宿ることがあるんじゃないか?

というところから書き始めている小説なのではないかなーとか思ったりもしました。

ポーカーのシーン

この作品の中でも特に力入れて書かれているな・・・という個人的に感じた部分があります。

途中、主人公の男がカジノで全財産をかけてギャンブルをするシーンがあるのですが、ここは相当力を入れて書かれているな・・・と思いました。



いろんな人物が登場し、それぞれが人生の全てをかけて賭けをするのですが、ここはなかなかの胸熱シーンです。

人が極限状態で何を考えるのか、どういう行動をとるのかその結果どうなるのかということがなかなかリアルに書かれている気がしました。



ここでは”カードをめくる”という行為が直接的に人生に関わってくるというシーンでもあり、占いとはまた別の意味合いでの”カードをめくる”が描かれています。

実際にこんな場所があるのかどうかは分かりませんが、客観的に見るギャンブル勝負は何て面白いんだろう・・・と思いました。

たとえ勝つ可能性があるとしても自分は参加したくねえな・・・とも思いましたが。

明るい話ではないけれど・・・

中村文則さんの作品は明るく直接的な分かりやすい希望を描いているようなものはあまりなく、今作もそのような小説ではあると思います。



しかし、100%暗い話ばかりかというとそうでもないと僕は思っています。
(だからこそこの人の作品が好きなのかもしれません。)

世の中にどこか居場所を見つけられずにいる人物が、少しずつ確実に世の中との距離を縮めるという帰結になっているものが多く、最終的には微かな希望を感じるからです。



中村さんは”あとがき”のところでよく「こういう作品があること、こういう人がいるんだということを知っておいてほしい」というようなことを書かれている気がします。(微妙に違ったらすいません)

これって凄く謙虚で、嘘のない言葉なんだなと個人的には感じます。

だからこそこの人の作品には共鳴する人が一定の割合でいて、世界的にも読まれているんじゃないかなとも思います。

今回の『カード師』もなかなか重いテーマのようなものを含んでいながらも、エンターテイメント性もあり、シンプルに面白い小説となっています。

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