感想・解説『あのこは貴族:山内マリコ』映画化された原作小説です。

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映画観た後に原作も読みました。

『あのこは貴族』

日本の小説家山内マリコさんによる長編作品で、2016年に集英社より刊行されました。

2015年から2016年にかけて『小説すばる』で連載されていたもので、2021年には岨手由貴子さんによる監督で実写映画化もされています。

内容紹介

東京の「上流階級」を舞台に描かれる、アラサー女子たちの葛藤と成長。
女性たちにかけられた呪いを解く、新たな物語

東京生まれの箱入り娘・華子は、20代後半で恋人に振られ、結婚を焦ってお見合いを重ねた末、ついにハンサムな弁護士「青木幸一郎」と出会う。一方、地方生まれの上京組・美紀は、猛勉強して入学した慶應大学を金欠で中退。夜の世界を経て、今はIT企業で働いている。腐れ縁の男友達「幸一郎」とのだらだらした関係に悩み中。生まれも育ちもまったく違う二人が、同じ男をきっかけに出会うとき、それぞれ新たな世界が拓けて──。

http://bunko.shueisha.co.jp/tokyonoblegirl/

映画原作の

『あのこは貴族』読みました。

少し前にこの小説の映画版を見て、原作もそのうち読もうと思っていたのですがようやく読むことができました。

映画の方には水原希子さんや、門脇麦さん、高良健吾さんなどが出演していて、考えさせられることのあるいい作品だなと思っていて、その原作本がこれとなります。



この作品は東京に生きる二人の女性のことを主に描いています。

一人は東京の良家で生まれ、不自由することなく、それでいて閉鎖的に生きてきた女性。

もう一人は田舎から上京してきて、東京でなんとか生きていこうとする女性です。

二人の女性がどのようなことを考え、どのように生きているのかということが描かれ、終盤に決して関わることのなかった二人が邂逅するという話の流れとなっています。

違いがあるということ

映画の方を先に見てしまっていたので、登場人物はどうしても映画の方の出演者を思い浮かべながら読んでしまいました。

でも、読み進めていくにつれて改めて映画の方のキャスティングはこの上ないほど適した人だったんじゃないか・・・と凄く思いました。



内容に関してもほぼほぼ原作通りで実写化されていたんだなーという感じでしたが、途中アレンジがされていたりもして、このシーンはあった、あのシーンはなかったとか考えながら読むのも結構楽しかったです。

華子が美紀の家を訪れるシーンなんかは小説の方はないですし、印象的に使われていた二人乗りのシーンなんかも原作にはなかったです。



その一方で、小説の方では細かい心理描写がなされていて、状況描写も詳しくされています。

華子や美紀が何を思っていたのかということや、彼女らを取り巻く環境がどのようなものだったのかということがしっかりと描かれています。

それぞれ表現媒体による違いはあるものの、伝えようとしていることは一貫して共通していて原作の方もいい作品だなと思いました。



この作品では格差や階層というものが日本には依然として存在していて、”違いがある”のだということはきっちりと描いています。

それでいて、その違いの比較から何かを伝えようとしているのではなく、違いはあるのだけれど、実は違っていないこともあるんだということを伝えようとしている気がします。

最終的にはどちらともが持っているもの、持っていないものとがあるんだということ。そして、幸福は比較からくるものじゃないんだということを少なくとも僕は思いました。

東京という街

映画を見て原作も読んでみて思ったのは、この東京という街はなかなかに変な街なんだなーということです。

いろんな人が共存しているようで、実はかなり隔絶されていたりもして、地方と東京の距離感も絶妙にあったりして、当たり前のように不思議なことが存在しているんだなということです。



この本に描かれているような何不自由なく育ってきている人を僕も何人かは知っているのですが、彼ら彼女らが”生まれ”だけで幸福を感じているのかというと、確かにそうではないのかもしれないなとも思います。

恵まれていることは間違い無いのですが、それが全てでは無いんだな・・・と。

小説の方でも華子がどのようなことに悩んでいるのかということが描かれていて、幸福に思えた結婚も孤独に苛まれ、あっという間に破綻してしまいます。



でも最後には華子は東京から外へと出ていくことによって変わっていくような様子が描かれます。

この感じはすごくいいなと思いました。

今まで知らなかった世界を知っていくことによって自分自身が知らなかった自分を発見していくというのは、どこに生きる人にも普遍的な真理なんじゃ無いかなーと。



いずれにしろ映画の方も小説の方も、今まで日本のエンタメで描かれてこなかったような部分を描いている気がします。

誰もが薄々知っていながらも、詳しくは描かれていなかった部分をしっかりと描いています。

誰が読んでもそれぞれの立場から、何かしらを感じることのある作品なんじゃないかと思います。

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