
少し前に観たこの映画です。
『すばらしき世界』
佐木隆三さんによる小説『身分帳』を原作とする日本映画で、2021年2月11日に公開されました。
監督は西川美和さんで、主演は役所広司さん。
他、仲野太賀さん、長澤まさみさん、橋爪功さん、六角精児さんなどが出演されています。
story
冬の旭川刑務所でひとりの受刑者が刑期を終えた。
刑務官に見送られてバスに乗ったその男、三上正夫(役所広司)は上京し、身元引受人の弁護士、庄司(橋爪功)とその妻、敦子(梶芽衣子)に迎えられる。
その頃、テレビの制作会社を辞めたばかりで小説家を志す青年、津乃田(仲野太賀)のもとに、やり手のTVプロデューサー、吉澤(長澤まさみ)から仕事の依頼が届いていた。取材対象は三上。吉澤は前科者の三上が心を入れ替えて社会に復帰し、生き別れた母親と涙ながらに再会するというストーリーを思い描き、感動のドキュメンタリー番組に仕立てたいと考えていた。生活が苦しい津乃田はその依頼を請け負う。しかし、この取材には大きな問題があった。
https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/about.html
小説原作の
少し前になりますが『すばらしき世界』観ました。
コロナウイルスの緊急事態宣言によって今は映画館が東京でやっていなかったりしているのですが、その前に劇場で鑑賞しました。
この作品は『身分帳』という佐木隆三さんによる長編小説を原作とする映画で、西川美和さんによる監督で制作された作品です。
原作のことは全く知らなかったのですが、他の映画を観た時に予告を見て面白そうだな〜と思って観に行った作品です。
出所した一人の男を
この映画は、刑期を終えた一人の受刑者の姿を描いた作品です。
役所広司さんの演じている三上という人物を中心とし、彼自身と彼の周りに巻き起こる出来事を描いている映画です。
率直な感想としては、なかなか難しいテーマを扱いながら、最終的にはいい映画だったな・・・というような作品です。
ヒヤヒヤするような場面もありながら、ラストは自分の生きている世界の”すばらしさ”について考えることとなるような、そんな作品でした。
この映画では三上という人物がいわゆる”普通”の世界へ戻り、暮らしていく姿を描いているのですが、ここにさまざまな視点が加わっています。
一つは三上さん自身の視点。もう一つは世界の”普通”を形成しているたくさんの人たちの視点。そして、もう一つがテレビなどというマスコミの視点です。
それぞれの視点からどのように三上さんのことが見えているのかということについて考えされ、そこにある正しさとはなんなのかということを問いかけているようなそんな作品となっています。
企画化される三上さんの
長澤まさみさんの演じるテレビ局員と、仲野太賀さんの演じる作家志望の青年は、三上さんの人生を企画化しようとします。
彼の人生を番組として取り上げ、社会復帰していくまでの過程を取材していくというのです。
途中、仲野さんの演じている青年は自分のやっていることの歪さに気がつき、三上さんの味方になるというか、取材を途中でやめることとなるのですが、観ている人のほとんどはこう思うのではないでしょうか。
こういう企画、テレビで観たことあるよな・・・と。
そして、それをなんの疑問も持つことなく、取材対象者の人生まで深く考えることなく消費していたんじゃないか・・・と。
そこには一人の人間がいて、その人の関わる人たちもいて、人生があるのにも関わらず、どこか遠くにいる他人事として観ていたなと。
いわば、三上さんは見るからにマスコミの”ネタ”にされようとしているのだと、この映画を観ていると分かります。
しかし、普段そんなことを考えることがあっただろうか・・・と。
そういったことを突きつけてくるのです。
悪い人とは?
この映画を観てすごく思ったことは「本当の意味で悪い人とはどういう人なんだろう」ということです。
三上さんは罪を犯し、刑務所に入っていたのですが、映画を観ていくにつれ、果たして彼は悪い人なんだろうか?と思ってきます。
ラストの方で、三上さんは真っ直ぐすぎる。普通の人が観て見ぬふりしてしまうようなことにも引っかかってしまう。というようなセリフがあります。
本当にその通りで、犯してしまった事実は悪だとしても、人間そのものが悪だとは思えないのです。
むしろ、それをネタ化して消費しようとさせる側、する側の方が悪いんじゃないかと思えてきます。
そして、自分もそっち側にいるんじゃないかって。
ラストシーン後の
個人的にこの映画で一番印象的だったのが、ラストシーンの沈黙です。
ネタバレになりますが、ラストで三上さんは自宅で亡くなってしまいます。
そこを訪れた周りの人たちなのですが、三上さんが不在となった途端、急にしおらしくなってしまうというシーンがあります。
三上さんを中心として生まれていたかのように見えていた繋がりは本当に希薄なもので、三上さんがいなくなってしまった途端、思い出したかのように他人に戻ってしまうのです。
でも、こういう感じあるよなーという気もして、ある誰かの存在が別の誰かをつなぎ合わせているんだなということはあります。
三上さんを支えるという目的を失ったみんなが、それぞれの人生に戻っていくかのようなラストシーンはなかなか印象的でした。
世界のすばらしさ
この映画を観た後はタイトルにある通り、世界の”すばらしさ”について考えさせられました。
日常の些細なことに世界のすばらしさはあるんだな・・・ということです。
ピクサー映画の『ソウルフル・ワールド』に近いようなラストだなーというようなことも思いました。
そしてこういう映画を観ると、男の監督が作ったらまた全く別の作品になるんだろうなーとか思ったりもします。
部分的に鋭くなる部分と、そうではなくなる部分があるんだろうなーとか思ったりしました。