感想・解説『アンダーグラウンド:村上春樹』あの場所で何が起こったのか

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最近読み返した村上春樹さんのノンフィクション本です。

『アンダーグラウンド』

小説家である村上春樹さんによるノンフィクション本で1997年に講談社より刊行されました。(後に1999年講談社文庫より文庫化)

1995年3月20日に起こった地下鉄サリン事件の被害者や関係者に村上さん自身がインタビューを行い、それをまとめたものとなっています。

1998年には続編となる『約束された場所で underground2』も刊行されており、こちらはオウム真理教の信者、元信者に対してのインタビューとなっています。

内容紹介

1995年3月20日の朝、東京の地下でほんとうに何が起こったのか。同年1月の阪神大震災につづいて日本中を震撼させたオウム真理教団による地下鉄サリン事件。この事件を境に日本人はどこへ行こうとしているのか、62人の関係者にインタビューを重ね、村上春樹が真相に迫るノンフィクション書き下ろし。

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000198082

サリン事件被害者の声

『アンダーグラウンド』読みました。

この本は何年か前に読んだのですが、もう一回読みたいと思い文庫版で購入。読み返しました。



『アンダーグラウンド』は作家である村上春樹さんによるノンフィクション本で、簡単に言うとインタビュー本となっています。

1995年に東京で起こった地下鉄サリン事件の被害者とその関係者にインタビューを行い、それをまとめた本です。

実際にその場にいた人もいれば、間接的に現場を訪れた人、被害者の家族など、さまざまな人のインタビューが掲載されています。



読み返してみて改めて思ったのですが、この本はとてつもなく凄い本です。

言葉を変えて言うと、情報として極めて高い価値を有している書籍だと思います。



サリン事件という前代未聞の事件の被害者の声を集めるということがいかに大変なことであるか、今ならより分かります。

同時にそれは時間と共に失われていくものでもあり、今現在同じような本を作り上げることは不可能です。

当時、まさにあの時期にしか得ることのできない情報を集め、それを書籍として後世に残していけるという意味で、すごく重要な書籍だと思います。

知りたいことは見当たらなかった

この本は村上さんの印象的な序文から始まります。

当時海外で生活していた村上さんは一時的に帰国していて、その時に事件は起こりました。

そこで何が起こったのかを知りたかった村上さんなのですが、日本のマスコミから欲しかった情報を見つけることはできなかったといいます。



そこで何が起こり、人々は何をし、何を思ったのかという情報はどこにもなかったのです。

それで村上さんは多大な労力と時間をかけ、リスクもありながらも自らインタビューを行うこととします。

その場に居合わせた人や、その関係者など62人にインタビューを行い、それらをまとめたのが『アンダーグラウンド』となります。



読み返してみて思ったのは、この本はかなり綿密に、そして関わる人の人生に悪影響を被らないように非常に気を使って作られている本です。

インタビュイーは全て仮名となっているのですが個人が特定されることや、書籍化されることによって被る風評を可能な限り少なくすべく作られている気がします。

そこで何が起こったのか

文庫版でも800ページ近くあるかなりボリュームのある本です。

しかし、この本はぜひたくさんの人に読んで欲しい本です。



この本で書かれていることは、被害者たちがどのような人生を送ってきたのかということから始まり、事件の時何を思い、何をしたのか。

そして、事件の後どのような人生を送っているのかが繰り返し書かれています。



当然のことながらそこには同じような人生を送っている人などおらず、いろんな人の人生を読めるというだけでも個人的には好奇心をそそられます。

しかし、この本はそこに地下鉄サリン事件という要素が加わっています。

それは登場する全ての人の人生にほぼ全ての場合において悪い影響を与えています。

いかに凄惨な出来事だったのかということがこれでもかと伝わってきます。

意外にも

読んでいて思ったのは、加害者側に対して強い罰を与えて欲しいというような人が意外にも少ないなということです。

多くの人は自分のことで精一杯というか、加害者側の贖罪とかそういったことには興味がないというような印象を受けます。



そして、中でも印象的なことを言っている人がいて、こういう事件がいつか起こるのではないかと思っていたと語っている人がいます。

彼はこのような事件が起こってしまうような萌芽はずっとあり、いつか起こってもおかしくないと思っていたというのです。



自分も今東京に住んでいて、電車で通勤をしているのですが、この人の言っていることはなんとなくわかるな・・・と思ってしまいました。

満員電車で通勤することは想像以上に心身にきます。何かがすり減っていくかのような感覚がすごくあります。

それは体力や精神などというようなものとも少し違うような、人として大切な何かです。



そうやってすり減った人たちがすがる先として選んだのがオウムであり、その帰結として起こってしまった事件がサリン事件なのです。

対となる

結構なボリュームですが、改めて読んでよかったなと思える良書です。

このような本は後の世界を生きる人がこの事件を振り返るにあたって重要な意味を持ってくる本ともなります。



そして、『アンダーグラウンド』には対となる『約束された場所で』という本があります。

こちらは被害者側ではなく、加害者側、つまりオウム真理教の信者、元信者にインタビューを行ったものとなっています。

こちらも数年前に読んだのですが、また読み返したいと思っています。

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