
カズオイシグロさんの新作小説です。
『クララとお日さま』
カズオ・イシグロさんによる長編小説で、2021年3月2日に世界同時発売されました。(日本語版は早川書房より)
ノーベル文学賞受賞後初となる著作で、高く注目されている作品です。
AFと呼ばれているAIロボットと少女との友情を描いた作品となっています。
内容紹介
ノーベル文学賞受賞第一作。カズオ・イシグロ最新作、2021年3月2日(火)世界同時発売! AIロボットと少女との友情を描く感動作。
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000014785/
最新長編小説
『クララとお日さま』読みました。
この小説はノーベル文学賞を受賞した世界的な作家であるカズオ・イシグロさんによる最新小説となっています。
3月の頭に全世界同時で発売され、最初は英語版しかないのかと思ったのですが日本語版もあることを知りすぐさま購入。
少し時間をかけてじっくりと読みました。
カズオ・イシグロさんは『日の名残り』や、『私を離さないで』などの作品で知られていて、生まれは日本ですが現在はイギリスに帰化されています。
この『クララとお日さま』はそんなイシグロさんによるノーベル文学賞後初となる長編小説となっています。
AFという人口親友
この作品ではAFという人口知能を持っているロボットが登場します。
AFとは『Artificial Friend』の略となっていて、直訳すると『人口的な友達』というような意味となります。
具体的な外見などは明確には示されていないのですが(読みこぼしていたらすいません)、極めて人間に近い見た目をしていて、人間に近い知能と学習能力を持っている存在として描かれています。
そんなロボットであるクララがある少女の家族に買われるところから話は始まります。
ジョジーという名前のその少女は一目見てクララのことを気に入り、購入することを決めるのです。
クララはジョジーの家で共に暮らすこととなるのですが、そこで人間の世界のさまざまな側面を見ていくこととなります。
ジョジーが重い病を抱えているということや、人間関係における歪みのようなものを感じ取っていくのです。
古くからありながら
このロボットと人間の関わりを描くという作品は古くから結構あります。
映画の『ブレード・ランナー』なんかも人間とアンドロイドとの関係を描いている作品ですし、日本でいうと『ドラえもん』なんかもそんな作品の一つです。
『クララとお日さま』もその系譜にある作品の一つであると言えるのでしょうが、これらは古くからありながらなかなか難しいテーマを扱っている作品でもあります。
人間が人間たる所以はなんなのか。人間とロボットとの区分けはどこにあるのか。
極めて人間に近いロボットが作り出されたとき、何を持ってそれをロボットとするのかという部分は完璧な正解の存在しない命題のようにも思えます。
だからこそ繰り返し語られている物語とも言えるのかもしれませんが、そこにはたくさんの語り口があるようにも思えます。
ジョジーを観察させている『ある理由』
AFであるクララは、ジョジーという少女のことを観察することを求められます。
(以下、ネタバレになりますが)
そこにはある悲しい理由が存在しています。
ジョジーは治る見込みの少ない重い病気にかかっています。
それを悟っている両親は、クララにジョジーを観察させ、ジョジーの死後、ジョジーとして生きることをさせようとしています。
つまり、亡くなった後もジョジーを「継続する」ことをしようとしているのです。
それはあまりにも悲しく、両親もそこに至るまでにいくつもの苦悩があったであろうことは容易に想像できます。
そこまでしてでも、子供を失いたくなかったのでしょうと・・・。
この物語の肝はそこにあるんだなと思いました。
ジョジーをよく観察し、完璧にジョジーを演じることができたとして、それはクララなのかジョジーなのか、どちらと言えるのでしょうか。
完璧に引き継ぐくとが可能かどうかは置いておいて、これはかなり難しい問題です。
おそらく、両親はそこにいるのは「ジョジーではない」と感じてしまうのではないでしょうか。
しかし、そこにジョジーとして生きるクララは確かに存在していて、時間が解決してくれるものなのかもしれませんし、決してそうではないかもしれません・・・。
悲しくもありながら、そこには希望となる何かがあるかもしれません。
ラストは
ラストはクララによるある行いによってハッピーエンドの方へと進んでいくのですが、全体を通して本当にたくさんの視点があるいい作品だな・・・と思いました。
作中では『向上処置』というような言葉も用いられていたりして、これは詳しくは言及されていませんが、階級向上のための何かであることが描かれています。
階級による格差のようなものも描かれていたりして、それをロボットの視点で見ていくというのはなかなか新鮮なものでもあります。
カズオ・イシグロさんはさすがノーベル文学賞を受賞されているというだけあって、世界に通ずる普遍的な部分を持っているいい小説だなと思いました。