感想・解説『前-哲学的:内田樹』結構ガチな論文集

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内田樹さんの初期論文集です。

『前-哲学的』

思想家である内田樹さんによる著作で、2020年12月28日に草思社より刊行されました。

著者が駆け出しの頃に執筆された7篇の論文が収録されています。

テーマはフランス文学や哲学となっていて、主に80年台から90年代にかけて執筆されたものとなっています。



収録されているのは以下の7篇の論文となっています。

・20世紀の倫理-ニーチェ、オルテガ、カミュ
・アルジェリアの影-アルベール・カミュと歴史
・「意味しないもの」としての<母>-アルベール・カミュと性差
・鏡像破壊-『カリギュラ』のラカン的読解
・アルベール・カミュと演劇
・声と光-『フッサール現象学における直感の理論』の読解
・面従腹背のテロリズム-『文学はいかにして可能か』のもう一つの読解可能性

内容紹介

フランス文学・哲学関連の論文を集成。偏愛するレヴィナス、ブランショ、カミュを題材に、緊張感溢れる文章で綴られた全七篇。倫理的なテーマに真摯に向き合う。

http://www.soshisha.com/book_search/detail/1_2478.html

内田樹さんの初期論文集

『前-哲学的』読みました。

この本は内田樹さんが80年台から90年代にかけて執筆された7つの論文が収録されている本です。

内田樹さんの本は非常に読みやすいものが多く、難しいことを普通の人にも理解できるように文章で伝えることがとても上手い方です。



しかし、この『前-哲学的』はそういったものでは全くなく、結構ガチガチな論文集となっています。

不特定多数の読み手を想定しているような内田さんの多くの本とは違っていて、一定程度の予備知識を必要とする読み手に向けて書かれている文章です。

哲学やフランス文学に関する一定の知識がないとなかなか読んでいてもピンとこないものばかりだなと思いました。

野心的な

自分はこの本をしっかりと理解できる人間なのかというと、僕は正直そっち側ではありませんでした。

文字を追い、ページをめくり、読み進めてはいたものの、分からないことばかりで、論文丸々ほとんど分からないというような部分も正直あったかと思います。



この本に収録されている論文のほとんどは、おそらく内田樹さんが研究者としての存在感を増すために書かれた、いわば「野心的」なものなのではないかと思います。

それは自分の知識や思想をしっかりと「見せつける」ための文章でもあります。



過去こういうことを考え、書いた人がいる中で、「自分はこう思っています」ということを示すために書かれているという感じです。

それは、教授となり、書き手となってからの、多くの人に向けた「与える」ための文章とは違っているのかなーと思いました。

カミュやサルトル、スピノザなどというような思想家たちの名前や、著作などに関する言及が山のようにあり、結構読むのは気合がいる本かもしれません。

部分部分、

なかなかに難しい本ではあるのですが、部分部分分かるようなところもあり、なるほどなーと思えるようなところもしっかりとある本です。

書物に関して書かれている部分で、書物を紙とインクの集積として捉えてしまうと、その本質を捉えられないというようなことが書かれていて、なるほどなと思いました。



本の存在価値や本質は、紙とインクという物質的な側面から捉えられるものではありません。

「そこに何が書かれているか」という本質の部分は、読み手による主体的な働きかけが必要だというのです。

書物の本質は、読み手と書物との間を往還するその運動自体に宿るのです。

なるほどな・・・という感じです。

最後には読解も書かれています。

ガチガチのフランス文学と哲学の論文集です。

どちらかというと読み手を限定する学術書というような感じの本です。

でも、本の最後には解題が書かれていたりと、読める人にはしっかりと読める本でもあるなと思いました。

フランス文学や哲学に興味があり、それなりに知識のある人には是非お勧めできる本です。

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