感想・解説『ウィトゲンシュタインの愛人』著者の知をめぐる孤独な旅

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久々に読んだしっかりした海外文学です。

『ウィトゲンシュタインの愛人』

アメリカの小説家であるデイヴィッド・マークソンさんによる著作で、原著の刊行は1988年となっています。

邦訳版としては木原善彦さんによる翻訳で2020年に国書刊行会より刊行されています。

デイヴィッド・マークソンさんはアメリカ文学として高い評価を得ている作家さんですが、この『ウィトゲンシュタインの愛人』は60歳を越えてから書かれた作品となっています。

内容紹介

地上から人が消え、最後の一人として生き残ったケイト。

彼女はアメリカのとある海辺の家で暮らしながら、終末世界での日常生活のこと、日々考えたとりとめのないこと、家族と暮らした過去のこと、生存者を探しながら放置された自動車を乗り継いで世界中の美術館を旅して訪ねたこと、ギリシアを訪ねて神話世界に思いを巡らせたことなどを、タイプライターで書き続ける。

彼女はほぼずっと孤独だった。そして時々、道に伝言を残していた……

ジョイスやベケットの系譜に連なる革新的作家デイヴィッド・マークソンの代表作にして、読む人の心を動揺させ、唯一無二のきらめきを放つ、息をのむほど知的で美しい〈アメリカ実験小説の最高到達点〉。

https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336066572/

一昔前のアメリカ文学

『ウィトゲンシュタインの愛人』読みました。

最近あまり本を読めていなかったのですが、久しぶりにしっかりとした海外文学を読みました。

この本を読もうと思ったきっかけはこれといってないのですが、本屋で見つけて面白そうだと思って買いました。



この本は調べてみると原著は1988年と結構前に書かれている本です。

ちょうど僕の生まれた年くらいで、今から30年ほど前となります。



作者はその時すでに60歳を越えていたそうで、今では亡くなっているデイヴィッド・マークソンさんという方です。

今となっては高い評価を受けている作家さんだそうですが、残した作品は少なく、有名な作品は4つのみとなっています。

文学IQが試される

この『ウィトゲンシュタインの愛人』と言う小説。

どんな内容なのかというと、地球上に一人生き残った女性の物語となっています。

ケイトと言う地球上に一人となったその女性が何を考え、どう生きているのかを描いたものとなっています。



読み終えてみてまず思ったことは、変わった話だな・・・と言うことです。

地球上に一人だけ生き残ったという設定がなかなか突拍子もなく、それでいてあまり具体的な大きな出来事は決して起こりません。



一部の情景描写とともにひたすらいろんな世界の作家や、作品の名前や内容に関する記述が続きます。

ジョイスや、エミリー・ブロンテなどの作家や、『イリアス』『オデュッセイア』などの作品などいろんな固有名詞が出てきます。



この作品は、本当に成熟した人の書く成熟した小説というような感じで、全てを理解するためにはかなりの文学IQが求められるなと思います。

正直、読み終えたはいいものの、内容をどこまで理解することができたのかは怪しいものです・・・。

著者の知を追いかける孤独な旅

作者はこの作品で何を描きたかったのか、その全てを知ることは難しいかもしれません。

読む人によっていろんな解釈がある作品だとは思うのですが、個人的にはこの作品は『著者の知を追いかける孤独な旅』なのではないかと思いました。



この小説はいろんな作品や作家に触れながら、著者の頭の中を巡る旅のような作品となっています。

読んでいて思ったのは、このデイヴィッド・マークソンさんという方は、知の本質は孤独の中にあるというような考えを持っている人なんじゃないかなと思いました。

世界中に一人だけという設定を持ち込んだのも、そうやって本当に一人になってもなお知的な思考をしてしまうということを描きたかったのではないかと。

そういう実験的な作品を60歳を越えてから書こうと思ったのも、おそらく著者にとっては必要な営みだったのではないかと思います。

読み応えある作品です

この本は相当読み応えのある作品でした。

出てくる作家や作品の固有名詞は正直半分くらいは分かりませんでしたし、今どういう状況なのか分からなくなる時もあります。



でも、読み終えてみると不思議な読後感のある作品でもあるなと思います。

なぜこういう作品を書くに至ったのかを考えてみたりしてみると、そこにはドラマがあるんじゃないかという感じもして。



それにしても翻訳版が刊行されるまで30年もかかるなんて、世界には他言語で書かれた知らない文学作品がたくさんあるものだな・・・と。

他にもいろんな海外文学を読んでみたいと改めて思った作品でした。

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