感想・解説『インザ ・ミソスープ:村上龍』味噌汁の中から見た日本とは

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村上龍さんのこの作品です。
久しぶりに読み直しました。

『インザ ・ミソスープ』

村上龍さんによる小説で、1997年に読売新聞誌上で連載されていた作品です。

読売新聞社より単行本が刊行され、後に幻冬社より文庫化されました。

1998年には読売文学賞を受賞している作品です。

内容紹介

そのアメリカ人の顔は奇妙な肌に包まれていた。夜の性風俗案内を引き受けたケンジは胸騒ぎを感じながらフランクと夜の新宿を行く。新聞連載中より大反響を起こした読売文学賞受賞作。

https://www.gentosha.co.jp/book/b2463.html

村上龍さんの長編小説

『インザ・ミソスープ』久しぶりに読み返しました。

この作品は1997年に刊行されていた小説で、何年か前に一度読んでいたのですが、時間を開けて再読。

内容はなんとなくは覚えていたのですが、具体的には覚えていなかったことも多く、ああ〜こんな話だったかという感じです。



1990年台の後半といえば、世界全体がある種独特な空気感を持っていた時期だと言います。

2000年という大きな時代の境目を前に、絶妙な空気感を持っていた時代でした。

おそらく僕が体験できる最初で最後の世紀末という時代です。



それもあってか、90年台にはたくさんの創作物が生み出され、そして今までになかったような凄惨な事件が起こったりもした時代ともなっています。

この作品もそんな時代に書かれた作品の一つで、脂の乗っている時の龍さんの小説だな・・・というような内容です。

フランクという人物が・・・

この小説はフランクという一人の人物を中心に回っていく内容となっています。

ケンジという青年はフランクに歌舞伎町で案内することを頼まれ、次第に距離を縮めていくこととなるのですが、次第に違和感を感じ始めます。



その違和感は少しずつ、確実に現実のものとなっていき、最終的にはケンジ自身も危ぶまれるような状況へとなっていくのです。

なかなかの内容の作品となっているのですが、さらに数奇なことに同時期に神戸連続児童殺傷事件という事件が起こります。



この事件は調べれば調べるほどいろんなことが出てくる事件でもあるのですが、『インザ・ミソスープ』の内容ともリンクする部分があります。

どちらが先ということもないのでしょうが、こういう不思議なことが時々起こることがあります。



全く同時期に、世界的に似たような内容の映画がいくつも出ていたり、そんなシンクロニシティが時々起こるのです。

インザ・ミソスープとは?

作品のタイトルとなっている『インザ・ミソスープ』とはどういう意味なのでしょうか?

単語の意味をそのまま直訳すると『味噌汁の中に』というような意味となります。

明確には作中でも示されてはいなかったと思いますが、この意味は読めばなんとなくわかる気はしました。



味噌汁は言わずもがな日本の食事の象徴とも言える汁物です。

この作品に登場するフランクという人物は、そんな日本の中にいる『異物』として描かれています。

日本という社会は表面的に平和的に見えますが、実は本当はそうではないのかもしれないな・・・と思わせる存在として登場しているのです。



味噌汁の中に最初からいる日本人と、後から訪れたフランクのような外人は本質的に異なっています。

味噌汁の中にいることは彼に何を思わせ、何をさせたのかということが描かれている作品でもあると思います。

味噌汁の内側と外側と

味噌汁も内側から見るのと、外側から見るのとではまた見え方が異なっているはずです。

それはきっと、ずっと内側にいた人では決して気がつくことのできないものでもあるのではないでしょうか。



この作品はそんなことを物語の形式として伝えてくれるようなものとなっています。

想像力を刺激されますし、小説でしかできないものでもあるのかもしれないなーと思いました。



90年台の村上龍さんは、このような先鋭的な小説をたくさん発表しています。

他の作品もほとんど読んでいるのですが、どれも面白い物ばかりで、この人やっぱり凄いな・・・と思うようなものばかりです。

時間があればそのうち読み返したいなーとか思ったりもしています。

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