感想・解説『レキシントンの幽霊:村上春樹』喪失を描いた

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20年ほど前の短編集です。

『レキシントンの幽霊』

村上春樹さんの短編集で、1996年に文藝春秋より刊行されました。

1999年には文春文庫より文庫版も発売されています。

映画化もされている『トニー滝谷』や、別バージョンも存在する『めくらやなぎと、眠る女』など全7篇が収録されています。

作品紹介

氷男は南極に戻り、獣はドアの隙間から忍び込む。幽霊たちはパーティに興じ、チョコレートは音もなく溶けてゆく。短篇七篇を収録

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167502034

収録作品

・レキシントンの幽霊
・緑色の獣
・沈黙
・氷男
・トニー滝谷
・七番目の男
・めくらやなぎと、眠る女

村上春樹さんの短編集

短編集『レキシントンの幽霊』読みました。

数年前に購入して読んでいたのですが、再度読み直しました。



この本には7篇の短編が収録されていますが、全部で200ページほどの読みやすい本となっています。

収録されている作品は、『レキシントンの幽霊』や『トニー滝谷』、『めくらやなぎと、眠る女』など、別のところでは別バージョンが存在する作品が多いです。

それぞれの話に関連性はない、色々な短編が収録されています。

すごく読みやすい

以前読んだ時の記憶はほとんどなかったのですが、今回読み直してみてすごく読みやすい短編ばかりだなーと思いました。

村上春樹さんの作品は好き嫌いが分かれると言われますが、短編は比較的誰でも読みやすいものが多い気がします。



分量的にもそうですし、ある一つの場面だけを切り取っているようなシンプルなものが多いので、本を読み慣れていない人でもすらすらと読める気がします。

それでいて、やっぱり村上春樹さんの小説だなというようなエッセンスは入っていて、『ああ、村上春樹作品を読んだなー』という読後感となっています。

喪失感を描いた

収録されている7篇は全て世界線の異なるものとして書かれています。

この短編では『喪失』を描いているものが多いような気がしました。



特に『トニー滝谷』という作品。

これは映画化もされている結構有名な作品だったのですが、内容をはっきりと覚えていなかったので、これを読みたくてこの本を読んだ部分もありました。



『トニー滝谷』はある男性のことを描いた作品です。

トロンボーン奏者の父を持つトニー滝谷というその男性は洋服好きの女性と結婚します。

しかし、女性は突然の交通事故で亡くなってしまいます。

家にあるたくさんの洋服とともに一人残された男性は、事務所に新しい求人を出します。

妻と同じ体のサイズの女性を探し、服を着せるのですがその女性は涙してしまいます。

結局トニー滝谷はその女性を雇うことはやめ、本当に妻を失ったのだということと孤独を噛み締める。



というような話です。

これは短いながらも本当に名作だなと思えるような作品です。

一人の人間がこの世からいなくなってしまうという『死』を凄く上手く、切なく描いています。

いろんな人に響く理由が

村上春樹さんの作品がたくさんの人に響く理由が読むとわかるような気がします。

人々が人生のどこかで直面したり、見たことあるような場面を切り取り、読む人は『自分のために書かれた物語だ』と皆が思わされます。

いい小説とはそういうもので、誰しもが自分のための作品だと思えるのです。



他にこの短編集に収められている中で個人的に好きなのは、『レキシントンの幽霊』と『沈黙』という作品です。

それぞれ、全く異なる話でありながらもどこか通ずる部分もあるように思える作品です。



『めくらやなぎと、眠る女』も他の本にも収録されたりしている作品で、のちの『ノルウェイの森』へとつながるような作品です。(作中に直接的な関連は無いのですが)

今となっては20年以上前の短編集となっているのですが、とても面白いし、いつ読んでも感じるものがある普遍性の高い作品が多いと思います。

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