感想・解説『絶歌 神戸連続児童殺傷事件:元少年A』加害者本人による手記

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なかなかの内容でした・・・。

『絶歌 神戸連続児童殺傷事件』

2015年6月28日に太田出版より刊行された書籍。

1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件の加害者である男性が『元少年A』名義で執筆したもので、事件に至る経緯、少年院を出てから社会復帰するまでの経緯を書いた本となってます。

出版前に被害者遺族の許可を取っていなかったこともあり、出版にあたり賛否が巻き起こったのですが、少年が犯罪へ至る心理などを克明に描いた貴重な文献だという声もある本です。

内容紹介

1997年6月28日。
僕は、僕ではなくなった。

酒鬼薔薇聖斗を名乗った少年Aが18年の時を経て、自分の過去と対峙し、切り結び著した、生命の手記。

「少年A」――それが、僕の代名詞となった。
 僕はもはや血の通ったひとりの人間ではなく、無機質な「記号」になった。

それは多くの人にとって「少年犯罪」を表す記号であり、自分たちとは別世界に棲む、人間的な感情のカケラもない、
不気味で、おどろおどろしい「モンスター」を表す記号だった。

http://www.ohtabooks.com/publish/2015/06/11095648.html

事件加害者による

『絶歌』読みました。

この本は1997年に起きた神戸連続児童殺傷事件という事件の加害者本人によって書かれた本です。



この事件のことはうっすら知ってはいたのですが、詳しい経緯や、どのような加害者、被害者などということは知りませんでした。

少し前に村上龍さんの本を読み、この事件に興味を持ちました。

それで見つけたのがこの『絶歌』という本です。



この本は犯人であるいわゆる『少年A』当人が、『元少年A』として著者となっています。

自らの生い立ちや事件に至る経緯、少年院での暮らしや、少年院を出て社会へ戻るまでのことが克明に書かれています。

事件自体にはあまり触れていない

この本では、事件自体のことにはあまり触れていません。

どのような事件だったのかを知りたいという人は別のどこかで情報を探した方がいいかもしれません。



これは『元少年A』による手記であり、あくまで主観的な描き方をされている本です。

14歳の少年による、類を見ないような事件であったのですが、事件を経て自分がどうなったのか、社会へ戻った時どう思ったのかということが書かれています。



驚いたのは、この本は被害者側の関係者には確認を取らずに刊行されているということです。

出版関係の内部事情は分かりませんが、被害者側からしたらたまらないことだと思います。



ただ、こういう本が貴重な情報を持っているということも一つの見方としてあると思います。

事件自体が起こらなかった方が良かったことは間違いありません。



しかし、事件は起きてしまい、それはもうどすることもできません。

本文中にも何度も書かれていますが、絶対に取り返しのつかないことをしてしまったのです。



当事者として事件に関わった人は少なく、稀な存在でもあります。

だからこそ、加害者である彼が何を思い、その後どのように生きているのかは貴重な情報でもあるとも言えるのです。

誰しも部分的には

この本を読んで何を思うかは人それぞれかもしれません。

でも、個人的にはこの本を描いた人物が全く遠いところにいるとは思えませんでした。



というより、おそらく誰しもが部分的にかもしれませんが、理解できる人間的な部分があるのではないでしょうか。

殺意と性欲を結びつけるような描写の部分だったりは、狂気的だなと思えるところもありました。



しかし、彼の言葉は、特に少年院から出てからの彼の言葉は他人事とは思えませんでした。

彼は『なぜ人を殺してはいけないのか?』という問いに対し、このようなことを言っています。

『どうしていけないのかは、わかりません。でも絶対に、絶対にしないでください。もしやったら、あなたが想像しているよりもずっと、あなた自身が苦しむことになるから』

本文より

これにはちょっと痺れたというか、この言葉はすごく説得力があり、真理に近いのではないかと思ってしまいました。



殺人はどのような経緯があろうとも、起こしてしまった後には自分の中にその死が強く刻まれます。

そして、その後何をしていようともその死が自分を苦しめ続けてくるというのです。



こんな言葉、実際に経験した人じゃなければ出てこないんじゃないか・・・っていう。

こんな言葉が存在しない世界が一番いいことは間違い無いのですが、現実はそうでなく、こういう情報は本当に貴重なのでは無いでしょうか。

感想を書くのが難しい

この本は感想を書くのがすごく難しい本だなと思いました。

僕は彼の行為自体を肯定しているわけでは無いのですが、彼の持っている『情報
』は希少なものであるという点においては重要であると思うからです。

今後同じような事件を起こさないためにどうするべきかの手がかりも少なからず含まれていると思います。



彼は最終的に少年院を出て社会へと戻っていくのですが、それがいかに大変なことかは容易に想像ができます。

自分の過去はどうやっても変えることはできず、現在と未来へ降りかかる呪いとして残ってしまいます。



そして、彼の出会っていく他者たちも彼の過去を知った時、一人の人間として尊重し、接することができるでしょうか。

自分がそうなったと想像してみた時、適切な振る舞いをできるのかちょっと自信がありません・・・。



この事件に関してはたくさんの文献が出版されています。

加害者、加害者の家族、被害者の家族、更生施設の人など、たくさんの人が本を出しています。

こういう本は、無かった方がいいに越したことは無いのですが、貴重な情報を持っていることは間違いありません。




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