
気になって読んだ本です。
『帰還兵はなぜ自殺するのか』
『帰還兵はなぜ自殺するのか』はもとワシントン・ポスト紙記者であるデヴィッド・フィンケルさんによる著作です。
日本語訳は古屋美登里さんによるもので、亜紀書房より2015年に刊行されました。
著者は記者として勤めていた後、イラク戦争の兵士たちを取材するためにバグダットに赴いています。
そこでの取材などをもとに書き上げたものが本書となっています。
内容紹介
ピュリツァー賞作家が「戦争の癒えない傷」の実態に迫る傑作ノンフィクション。内田樹氏推薦!
https://www.akishobo.com/book/detail.html?id=712&kw=帰還兵はなぜ自殺するのか
本書に主に登場するのは、5人の兵士とその家族。 そのうち一人はすでに戦死し、生き残った者たちは重い精神的ストレスを負っている。
妻たちは「戦争に行く前はいい人だったのに、帰還後は別人になっていた」と語り、苦悩する。
戦争で何があったのか、なにがそうさせたのか。
2013年、全米批評家協会賞最終候補に選ばれるなど、米国各紙で絶賛の衝撃作!
「戦争はときに兵士を高揚させ、ときに兵士たちを奈落に突き落とす。若い兵士たちは心身に負った外傷をかかえて長い余生を過ごすことを強いられる。
その細部について私たち日本人は何も知らない。何も知らないまま戦争を始めようとしている人たちがいる。」(内田樹氏・推薦文)
戦争から帰った兵士たちの記録
『帰還兵はなぜ自殺するのか』という本を読みました。
きっかけは『アメリカン・スナイパー』という映画を見たことでした。
この映画ではイラク戦争で英雄的な活躍をしたスナイパーの様子が描かれていて、戦争から戻ってきた後の家族との隔たりのこともリアルに描かれていました。
PTSDという病のようなものなのですが、戦争から帰ってきても心は戦地へ残ったままとなっているのです。
恐ろしいものだなと思うと同時に、不謹慎かもしれませんが、自分ではすることのできない経験に興味を持ちました。
そして、そういうことの書かれた本を読んでみたいなと強く思いました。
『帰還兵はなぜ自殺するのか』はまさにそのような戦地から戻った人たちを取材したものです。
その兵士だけでなく、妻などの家族の様子も描かれているノンフィクション本となっています。
終わらない戦争
戦争は誰にとっても強烈な経験です。
常に誰が死ぬか分からないという緊張状態の持続は、誰しもの精神と肉体を多かれ少なかれ蝕んでいきます。
それまでの人生や経験の全てを上書きされてしまうような極限状態なのです。
この本を読むと、戦地で命を落とすということは『ある意味』ではありますが、幸福なのかもしれないなとも思ってしまいました。
なぜなら、戦争から普通の生活へ戻った時のギャップは凄まじく、決して終わることのない戦争を生きなければならないからです。
”死なないことが素晴らしいと思えるためには、持続する幸福が不可欠だ”というようなことを何かの本で読んだことがあります。
確かにその通りで、苦痛と共に生きることは、それこそ本当の地獄と言えるものなのです。
家族の苦悩
この本では、戦地から戻ってきた兵士たちの家族たちの様子も描かれています。
個人的にはこっちの方がリアリティがあったというか、実際に理解に及ぶ範囲なのではないかなと思いました。
本書では、戦地から戻った兵士たちのためのプログラムを行う矯正施設のようなところに入る人のことが描かれています。
そして、彼には妻がいて子供がいてと家族がいる普通の男性なのです。
妻は彼が戦地からが戻ってきて、ちょっとおかしいことを悟ります。
もとの彼とは何かが大きく異なっていて、簡単には、もしかすると永遠に戻ることはできないのではないかということもなんとなく察しています。
それでも彼女は彼が戻ってくることを信じて生活を続けていくのですが、これがいかに過酷なことでしょうか・・・。
これこそ先の見えない地獄というか、人生を棒に振る可能性すら十分にある恐ろしいことでもあるのです。
ちょっと難しいけれど
読み通してみて、決して簡単な本ではないなと思いました。
若干読みづらいところもありますし、誰だっけこれ?と思うような部分も正直ありました・・・。
でも、これはたくさんの人が知っておくべきことなのは間違いないなとも思いました。(日本で普通に暮らしている人にとってはあまりにもリアリティがないかもしれませんが・・・)
この本でも扱われているイラク戦争は2000年代のことで、僕もしっかりと生まれていました。
決して遥か昔のことでもなくのことでもなく、実際に生きていた現実の世界で起こっていたことなのです。
そう考えると、必ずしも他人事ともいえないことでもあるのです。
最近になって『戦争』というものの持っているエネルギーに強く興味を持っています。
絶対に無い方がいいことであるのは間違いないのですが、起こってしまった戦争には必ず理由があり、そこで起きたことはたくさんの人に影響を与えます。
善悪の判断とは別のところにある好奇心とでもいうのでしょうか。
とにかく、いい本であることは間違いありませんん。