感想・解説『一人称単数:村上春樹』遊び心溢れる短編集

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先日発売された最新短編集です。

『一人称単数』

小説家村上春樹さんによる短編集で2020年7月18日に文藝春秋より刊行されました。

『文學界』に掲載された7つの短編に、タイトルともなっている『一人称単数』という書き下ろし作を加えた全8作が収録されています。

内容紹介

6年ぶりに放たれる、8作からなる短篇小説集

「一人称単数」とは世界のひとかけらを切り取る「単眼」のことだ。しかしその切り口が増えていけばいくほど、「単眼」はきりなく絡み合った「複眼」となる。そしてそこでは、私はもう私でなくなり、僕はもう僕でなくなっていく。そして、そう、あなたはもうあなたでなくなっていく。そこで何が起こり、何が起こらなかったのか? 「一人称単数」の世界にようこそ。

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163912394

収録作

「石のまくらに」
「クリーム」
「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」
「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」
「『ヤクルト・スワローズ詩集』」
「謝肉祭(Carnaval)」
「品川猿の告白」(以上、「文學界」に随時発表)
「一人称単数」(書き下ろし)

2018年ごろから発表された

村上春樹さんの最新作となる『一人称単数』発売されました。

作品としては『騎士団長殺し』、短編集としては『女のいない男たち』以来となる単行本となります。



収録されている短編は8つとなっていて、うち7つは『文學界』にて2018年頃から発表されていたものとなっています。

そこにタイトルともなっている『一人称単数』という書き下ろしを加えた全8篇となっています。

久々の新作で

村上春樹さんの新作ということで、おそらく一定数の人は注目していて、手にとっていることかと思います。

短編は結構読みやすい作品が多く、あまり本を読まない人でも手にとってみればいいなとも思いました。



短編は長編とは違い、あるひとつのテーマや情景のようなものをきっかけに、一気に書き上げるというようなことをどこかで読んだことがあります。

『一人称単数』に収録されている作品もまさにそのような作品が多いです。



あるひとつの事柄や、人物を切り取って、そこに装飾をつけて書き上げている感じがします。

個人的には短編は軽い気持ちで読めるものが多く、気楽に楽しめました。

遊び心ある

この短編集に収録されているのは、なんか遊び心に溢れているものが多いような気がしました。

ビートルズや、チャーリー・パーカーなど、のアーティストが登場するような話もあれば、ヤクルトスワローズの話もあったりします。



スワローズの話は、人生における負け方の重要性を描いているような話でした。

『品川猿の告白』という話は、品川猿というフィクショナルな存在が登場する話で、『かえるくん、東京を救う』にちょっと似てる話だなと思いました。



そして、書き下ろしで収録されている『一人称単数』。

これは結構村上さん自身のことを書いているんじゃないかなと思いました。

あといくつの作品を

村上さんは今71歳となっています。

作品を見る限り、衰えのようなものはあまり感じられないような気もしますが、決して若くはない年齢です。



まだまだ書き続けるのでしょうが、長編をあと一体いくつ読めるのだろう?と少し不安になったりもします。

そう考えると、作品を生み出すということは凄いことなんだなと改めて思います。

『ねじまき鳥クロニクル』なんかも村上さんが書いていなければ、存在しない世界になってしまうからです。



そして、この短編に収録されている作品は、どこか昭和の空気を感じるものも多い気がします。

ネットや携帯なんかは登場することもなく少し古い風景が描かれている気がします。

そういう景色を描くことのできる作家も次第にいなくなってしまうのかなと思うと寂しくなります。



なんだかんだでやっぱり村上春樹さんは、日本人としては一番の小説家だと思います。

世界でもしっかり受け入れられているというか、国境や文化を超えることができているからです。

短編も好きですが、やっぱり村上さんの真骨頂は長編だなとも思います。

次はいつになるのか分かりませんが、一つでも多く読めることを願っています。

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