感想・要約『ボタン穴から見た戦争 白ロシア子供たちの証言』

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『チェルノブイリの祈り』に続き読んだこの人の本です。

内容紹介

本作は2015年ノーベル文学賞受賞作家アレクシエーヴィチが,『戦争は女の顔をしていない』につづき1985年に発表した作品です.

『戦争は女の顔をしていない』の取材中,彼女は大人とはまた違った位置から戦争を見つめていた子供たちの眼に気づきます.

そこで1983~85年に,第二次世界大戦時子供だった人たち200人以上に取材しました.そこから101人の証言を選んだのが本作です.

 1941年にナチス・ドイツの侵攻を受けたソ連白ロシア(ベラルーシ)は数百の村々で村人全員が納屋に閉じ込められ,老人から赤ん坊まで焼き殺されました.

本書の証言を通して「今も世界のあちこちで爆撃その他で平穏な日常を踏みにじられている子供たちがどんな思いでいるのか,その心の傷がどんな風に長く深く残っていくのかが推察できるのではなかろうか?」(訳者あとがき)

 邦題名は,爆弾が落ちるところを見たくて怖がりながらも,ひっかぶったオーバーのボタン穴から覗いてみた少年のインタビューから.原題は「最後の生き証人」.

https://www.iwanami.co.jp/book/b256545.html

たくさんの人たちの声を

『ボタン穴から見た戦争』という本を読みました。

この本は『チェルノブイリの祈り』の著者で2015年にはノーベル文学賞を受賞しているスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチによる著作です。



本書は『チェルノブイリの祈り』よりも前に執筆され、1985年の発表となっています。

『チェルノブイリの祈り』でもそうだったのですが、この人のやろうとしている事は本当に桁外れというか、相当大変なことをしている人です。



本書は、第二次世界大戦の時に子供だった人たちにインタビューを行い、その証言をまとめたものです。

歴史的な事実や、善悪などの判断などが示されている本ではありません。



ただただ歴史のその場にいた人たちの声を集めた本なのです。

小さな物語の側から

それはいわば『小さな物語』の側から世界を見るということでもあります。

戦争や国家などというものは誰しもが不可避的に関わらざるを得ない『大きな物語』です。



しかし、その一方でそこには一人一人の人生があり、生活があります。

そこには決して明るいものだけではない感情があります。



本の最後に書かれている沼野充義さんによる解説にもありますが、この本の著者は歴史的な史実を残そうとしているわけではないのです。

彼女が記し、残そうとしているのは『感情の歴史』なのです。



いつ何が起こり、どうなり、何人の命が奪われた。というような事実が歴史には必ずあります。

それは事後的には決して変えることのできない事実です。



しかし、彼女が汲み取ろうとしているのは、そんな事実の周りに溢れているたくさんの『感情』なのです。

いかに凄いことをしているか・・・

『チェルノブイリの祈り』に続いてこの人の本読んでみて、この人のやっていることがいかに凄いかが分かったような気がしました。

この人の集めている情報は、歴史の中に確かにある『一次情報』です。



それは確かにありながらも、時間の経過とともに薄れていき、次第になくなってしまうものでもあります。

本書に載っている人たちの声なんかも、100年後に集める事はもう不可能です。



しかも、戦争の時の記憶なんて、ほとんど全ての人が傷として抱えているものです。

声を集めるための取材は、そういったトラウマ的過去を呼び起こしてもらわなければならないのです。



それがいかに時間と労力、お金のかかる事であるか・・・。

そりゃノーベル文学賞取るのも当然だよな・・・っていう。

情報としての価値

そんな声がこの本ではたくさん書かれています。

一つ一つは短く、とても読みやすくなってもいます。



いろんな声がある中で、個人的に特に印象的だったのは、

”戦争の前、お父さんがおとぎ話をしてくれるのがとても楽しみでした。たくさん知っていて、上手でした。戦後はもうおとぎ話を読みたくありませんでした。”

という言葉です。



おそらく戦争という現実の悲惨な世界を目にして、空想の世界の話を聞くことにもう価値を見出すことができなくなってしまった。ということなのだと思いました。

こういう言葉って本当に心を開いていないと引き出せないものだと思います。



他にもたくさんの人のたくさんの言葉が載っていて、読んでいくにつれて、なんて価値の高い情報なんだろう・・・と圧倒されていきましたね。正直。

この人は他にもいくつか本を出していて、そのどれもがこのような形式の本となっているとのこと。



他のも読んでみようと思っています。

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