感想・解説『ルック・オブ・サイレンス』

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『アクト・オブ・キリング』に連なるこの作品。

『ルック・オブ・サイレンス』

アメリカ人の映画監督であるジョシュア・オッペンハイマーさんによるドキュメンタリー作品で、2014年に公開されました。

原題は『The Look of Silence』で、同監督によるドキュメンタリー映画『アクト・オブ・キリング』の続編となる作品です。

1965年にインドネシアで起こった共産主義者の大量虐殺を扱っている作品で、被害者側の青年であるアディをメインとする作品です。

内容紹介

虐殺で兄が殺害された後、その弟として誕生した青年アディ。
彼の母は、加害者たちが今も権力者として同じ村に暮らしているため、アディに多くを語らずにいた。

アディはジョシュア・オッペンハイマー監督が撮影した、加害者たちへのインタビュー映像を目にし、彼らが兄を殺した様子を誇らしげに語る様に、強い衝撃を受ける。

「殺された兄や、今も怯えながら暮らす母のため、彼らに罪を認めさせたい・・・」アディは監督に、自らの加害者のもとを訪れることを提案。

しかし、今も権力者である加害者たちに、被害者家族が正面から対峙することはあまりに危険だ。眼鏡技師として働くアディは、加害者たちに「無料の視力検査」を行いながら、徐々にその罪に迫ってゆく。

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被害者側を描いた

映画『ルック・オブ・サイレンス』観ました。

この映画は、同じくジョシュア・オッペンハイマーさんの監督作品である『アクト・オブ・キリング』の姉妹版となるドキュメンタリー作品です。



扱っているテーマは同じく1960年代に起きたインドネシアでの大虐殺です。

『アクト・オブ・キリング』はその加害者側にスポットライトを当てた作品でした。

それに対し、『ルック・オブ・サイレンス』はその被害者側へ焦点を当てドキュメンタリーとなっています。



映画は一人の青年が映像を見ているところから始まります。

アディというその青年は、自分には兄がいたこと、兄が酷い殺され方をされたことを知ります。



そして、その様子を誇らしげに語っている人たちが権力を握り、今も生きていることを知るのです。

その事に疑問を感じた彼は、眼鏡を仕立てるということを装って話を聞きにいくという映画となっています。

罪の所在はどこにある?

そうやって話を聞いていくアディなのですが、話を聞いていくにつれてある事に気がつきます。

彼らは人を殺していることは自覚していながらも、誰も罪の意識を感じてはいないのです。



”あれは仕方がなかった。あの状況ならば誰でもそうしただろう。もっと上からの指示を受けていただけだ。”

人々は口々にそのようなことを言います。



そして、次第にアディは悪者のように扱われ始めます。

”過去は過去だ。終わったことを蒸し返すな。”と邪険に扱われていくのです。



そして、母親からも過去のことを探ることは危険が伴うからやめなさいと言われてしまうのです。

兄を失ったという悲しさを一番抱えている母親でさえもそう言わざるを得なくなっているのです。

次第に見えなくなっていく

この映画を見ると、罪はどこにあるんだろう・・・?ということをすごく考えさせられます。

起こった事実は明白です。たくさんの罪なき人が犠牲になっていることも明白なのですが、その罪の所在だけが明確ではありません。

その事実を深掘りすることも認められていない。そんな状況なのです。



この映画はそういう被害者側の姿を捉えている映画です。

こんな映画は他に観たことがありませんし、たくさんの人が観るべき作品だと思います。



最初に出てくる蝶のモチーフや、アディさんが眼鏡技師として人たちのことを訪れているというのも絶妙だなと思いました。



過去のことを知っている人たちは今では老人となっています。

次第に目が見えなくなっていくことと、過去の真実が次第に見えなくなっていっていることが重なって見えてきます。



過去のことはもう蓋をして目を逸らし、誰も見ようとはしていません。

それをまた見せようとするアディに対し、怒りをぶつけるようなシーンもあったりしました。



何度も観たい映画かと聞かれるとそうではないかもしれません。

でも一度は観るべき作品だと思いました。

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