感想・解説『アクト・オブ・キリング』

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こんな映画は見たことがありませんでした。

『アクト・オブ・キリング』

アメリカの映画監督、ジョシュア・オッペンハイマーさんによるドキュメンタリー映画です。

原題は『The Act of Killing』で、日本では2014年に公開されました。

インドネシアでの大虐殺のその後を描いた作品となっています。

作品紹介

★イントロダクション これが“悪の正体”なのだろうか―――。

60年代のインドネシアで密かに行われた100万人規模の大虐殺。その実行者は軍ではなく、“プレマン”と呼ばれる民間のやくざ・民兵たちであり、
驚くべきことに、いまも“国民的英雄”として楽しげに暮らしている。

映画作家ジョシュア・オッペンハイマーは人権団体の依頼で虐殺の被害者を
取材していたが、当局から被害者への接触を禁止され、対象を加害者に変更。

彼らが嬉々として過去の行為を再現して見せたのをきっかけに、
「では、あなたたち自身で、カメラの前で演じてみませんか」と持ちかけてみた。

まるで映画スター気取りで、身振り手振りで殺人の様子を詳細に演じてみせる男たち。
しかし、その再演は、彼らにある変化をもたらしていく…。

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実際の殺人を演じさせるという

映画『アクト・オブ・キリング』。

数年前に一度観たことがあったのですが、今回”全長版”という少し長い完全版のようなものを改めて観ました。



この映画は以前観た時にも結構な衝撃を受けた作品で、今回改めてその凄さが分かったような気がしました。



1965年にインドネシアで100万人規模の大虐殺が起きました。

この歴史的事実は正直全く知らなかったのですが、共産主義者だとされた人たちを民間の人たちが殺したという出来事です。



この映画は、虐殺の加害者たちに取材をし、その当時の殺人の様子を演じさせる。というものです。

実際の人物に過去の殺人の様子を演じさせるという、かなり異色のドキュメンタリーとなっています。

喜んで演じている人たち

この映画に出てくるのは主に虐殺に加担した加害者たちなのですが、彼らは英雄として国内で優雅に暮らしています。

危険な思想を持った人たちを排除した英雄とされ、日々暮らしているのです。



そんな彼らは『正しいことをした』という意識のもと、撮影に協力的になります。

自分たちの『正しい行為』を改めて見せることができると、喜んで演じているのです。



おそらく客観的に観ている観客は、この様子がいかにおかしなことであり、少し滑稽なことであるかは分かると思います。

しかし、何故彼らがそうやっているのかという部分も次第に明らかになっていきます。

最初は被害者の側を

この作品を作るにあたり、初めは被害者の側の取材をしていたそうです。

しかし、この事件を掘り返すことはインドネシアではタブーとなっていて、危険を伴うことでもあると言います。



被害者側の取材は難しく、それならばということで加害者側へと取材の対象を変更することとなったとのこと。

加害者たちはまるでスターかのように当時のことを演じ始めたそうです。



後に公開された『ルック・オブ・サイレンス』という姉妹作を観ると、彼らの行いがいかに狂っているかがよく分かります。

最後には・・・

そんなドキュメンタリー作品なのですが、この映画を通じて彼らに少し変化が現れていきます。



メインとなっているのはアンワルさんという男性です。

彼は一見穏やかそうな人物なのですが、過去には1000人以上を殺害している人物です。



彼は当時の様子を嬉々として演じていくのですが、終盤拷問されるシーンを演じることができなくなっていきます。

自分に拷問された人たちもこんな気持ちだったのだろうか?

と、被害者側の気持ちを感じるようになっていくのです。



殺されると分かっていた当時の被害者たちはもっと怖かっただろうということを知り、自分の行いを省みることとなるのです。

そして、最後の嗚咽のシーン・・・・。

あれはどこまでがリアルか分からないのですが、人間ってこんな声出せるんだ・・・・というような衝撃のシーンとなっています。

他人事ではない

この『アクト・オブ・キリング』という作品は相当凄い作品です。



まず、国内でもタブーとされている過去のことを扱っている作品であることです。

おそらく、取材や撮影にも結構な危険があったのではないかと思います。



ラストのエンドロールには”ANONYMOUS”という単語が並んでいて、これは”匿名者”という意味です。

つまり、たくさんの人がこの映画に関わったことを知られたくないと思っているのです。



そんな中この映画を作りきったのは相当大変だったはずです・・・。



そして、この映画は決して他の国で起きた他人事の話ではないと思いました。

虐殺の当事者となったのは民間の人たちで、アンワルさんもごく普通の人に見えます。

しかし、そんな人たちでも条件と環境が揃えば、たくさんの人を殺してしまうこととなるのです。



これは、日本に生きている僕らにも決して他人事ではありません。

さらに姉妹版となる『ルック・オブ・サイレンス』という映画があります。

これも観ましたが、こちらもなかなかの衝撃でした・・・。

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