
『チェルノブイリ』のドラマを見た後に読み直しました・・・。
『チェルノブイリの祈り』
『チェルノブイリの祈り』はベラルーシの作家・ジャーナリストであるスベトラーナ・アレクシエービッチさんによる著作で、1997年に発表されました。
日本では松本妙子さんによる翻訳で、1998年に岩波書店より、2011年には岩波文庫より文庫版が刊行されています。
1986年に起きたチェルノブイリ原発事故を経験した人たちの声を3年にわたってインタビューしたものをまとめたものとなっています。
著者は2015年にはノーベル文学賞を受賞しています。
内容紹介
1986年の巨大原発事故に遭遇した人々の悲しみと衝撃とは何か.
https://www.iwanami.co.jp/book/b256474.html
本書は普通の人々が黙してきたことを,被災地での丹念な取材で描く珠玉のドキュメント.
汚染地に留まり続ける老婆.酒の力を借りて事故処理作業に従事する男,戦火の故郷を離れて汚染地で暮らす若者.
四半世紀後の福島原発事故の渦中に,チェルノブイリの真実が蘇える.(解説=広河隆一)
たくさんの声を集めた
『チェルノブイリの祈り』を読み返しました。
この本は4年ほど前に一度読んでいたのですが、アメリカのドラマである『チェルノブイリ』という作品を見て読み返しました。
以前読んだときはチェルノブイリで何が起きたのか、いまいち正確には分かっていなかった部分もあったのですが、今回ドラマを見た後に読んで、とても深く内容が入ってきた気がしています。
ドラマの『チェルノブイリ』では、チェルノブイリ原発の事故の時に、何が起こったのか、その真実を正確に捉え、伝えようとしている作品です。
原子力発電所における爆発という、人類史上に類を見ない未曾有の大災害の真実を描いているものでした。
それに対しこの『チェルノブイリの祈り』はそういった『何が起きたのか』ということや、『なぜ起きたのか』という部分に関する言及はほとんどありません。
この本はチェルノブイリ原発事故の後の世界を生きる人たちの『声』を集めた本なのです。
人々の声に込められた
本書は大きく三つの章に分かれていて、人々のたくさんの声が記されています。
短い語りをいくつも連ねている章もあれば、ある人物の長い語りを書いている部分もあります。
事故に比較的近い位置で関わっていた人の声もあれば、直接的には全く関与していないような子供の声なんかもあったりと様々な人の声が集められています。
一番最初に書かれている消防士の妻の話なんかは、ほとんどそのままドラマ版でも使われていたりしました。
おそらくですが、このエピソードはこの本から取られているいるものだと思います。
他にも、子供たちの声なんかは結構リアルで、衝撃的なものも多かったです。
ロシア人メンタリティーの破綻
本書の中で個人的に特に印象に残っているのが、アレクサンドル・レワリスキーさんという歴史家の部分に書かれいた言葉です。
チェルノブイリの事故は、ロシア人のメンタリティーの破綻だということが書かれています。
爆発したのは原子炉ではなく、以前からあった価値体系の全てだというのです。
この言葉、『チェルノブイリ』のドラマを見た後だと、よりその意味が深く分かると思います。
以前読んだときは、この部分にはそこまで印象には残っていなかったのですが、ドラマを見たことによってなるほどな・・・とすごく思いました。
『チェルノブイリ』のドラマを見てから、この『チェルノブイリの祈り』を読むのは、個人的にはとてもおすすめです。
ドラマは『どういう事故で、なぜ起きたのか』という事故の内側を深掘りしてく内容であったのに対し、
『チエルノブイリの祈り』の方は、『外側にある声を集めることで、全体像を浮かび上げていく』というような本です。
つまり、この二つを見ればこの事故をいろんな側面から知ることができるのです。
とても面白い本
おそらくこの本は、今後も長く残り読まれていく本です。
事故に関する極めて貴重な『生の声』を集めている文献だからです。
このような情報を集めることは容易ではありませんし、時間が経過しすぎてしまうと不可能なことでもあります。
ある時期にしか集めることのできない情報であり、だからこそ価値の高い情報でもあるのです。
それにしても改めてチェルノブイリの原発事故はとてつもない事故だったんだな・・・と。
東日本大震災の時に福島第一原発でも事故が起きていますが、この二つの事故のことについて、本当に無知だった自分を恥じています・・・。
興味のある人はドラマ『チェルノブイリ』とセットでこの本是非読んでみてください。