感想・要約『MISSING 失われているもの:村上龍』

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村上龍さんの最新長編となります。
ようやく読み終えました。

『MISSING 失われているもの』

村上龍さんによる長編小説で、2020年3月18日に単行本が刊行されました。

元々は村上龍さんにメールマガジンにて2013年から2019年にかけて連載されていたもので、5年ぶりとなる長編作品となっています。

内容紹介

この女優に付いていってはいけない――制御しがたい抑うつや不眠に悩んでいた小説家は、混乱と不安しかない世界に迷い込み、母の声に導かれて迷宮を彷徨い続ける。

『限りなく透明に近いブルー』から44年。
ひと筋に続く創造の軌跡の集大成にして重要な新境地作。

「こんな小説を書いたのは初めてで、もう二度と書けないだろう」。

https://www.shinchosha.co.jp/book/393402/

村上龍さんの最新長編

村上龍さんの長編小説である『MISSING 失われているもの』読み終えました。

村上龍さんは、初期の作品から最近の作品まですごくファンで、ほとんど全ての作品を読んでいます。



若い頃は、特に1990年代頃は結構たくさんの作品を発表されていたのですが、最近は長編が多く、それも数年に1作ごととなってしまいました。

それだからということもあり、1作1作のクオリティはとても高く、重い作品が多い気がしています。



村上龍さんはカンブリア宮殿などテレビの仕事もしていたりもするのですが、あくまで本業は小説家です。

そして、日本ではかなり高いレベルにいる小説家であることは間違いありません。

最初はらしくない・・・?けれど

そんな村上龍さんの最新作『MISSING 失われているもの』。

この作品はちょっとらしくない始まり方をします。

というか、今までの村上龍さんの作品群からしたら、相当『らしくない作品』となっていると思います。



村上龍さんという作家は、外の世界を描くのがうまい作家だと思っています。

自分以外のすべての、広い意味での『他者』をとてもドライな視線で描くことのできる作家です。



そして、数少ない『強者』を描くことのできる作家でもあります。

それは龍さん自身がいきなりデビュー作が大ヒットしてしまうというような『持っている人』にしか書くことのできないような、視点でもあると思います。



そこが村上龍さんの小説におけるオリジナリティであり、最大の魅力ともなっています。



そういう意味でこの『MISSING 失われているもの』はそのどちらの要素も薄めで話は進んでいきます。

内面描写的な描き方で進んでいくとともに、描かれているのは何かを失っている『弱者』の姿なのです。

それでも

この作品は意識的にか無意識的にかは分かりませんが、もう一人の村上である、村上春樹さん的な小説だなー・・・とか思いながら読んでいました。

最初に登場する猫や、井戸のモチーフが登場したりと、春樹的だな・・・とか思う部分が多々あっったりして。



それでも、最後まで読み進めていくと「ああ、やっぱり村上龍さんの小説だったなぁ」と思うこともできたような気もしています。



小説のクライマックスで、現実と夢想している意識との境界が曖昧になっていく部分があります。

そこでの描写や、メモを書き連ねていく部分なんかはまさに龍さんの小説というような感じだったりして。

自伝的な小説

この話はおそらく、龍さんの自伝的な部分がかなり含まれています。

どの程度が事実で、どの程度が虚構なのかは分かりません。

それでも、龍さんが久しぶりに『自分のことを書いている。』ということを強く思いました。



村上龍さんは今68歳となっています。

年齢的にはもう老齢といえる年齢です。

若い頃のギラギラしていた頃の自分や、何かを得ていく過程にいる頃の自分とは異なっているのです。



村上龍さんはそのことから全く逃げずにこの小説を書き切っています。

吉本ばななさんのコメントにもありますが、龍さんは全く逃げていないと思います。



実際、この小説を書ききるのにも6年ほどの時間が流れています。

老年期の6年とはどのような感覚なのでしょうか。

小学校の6年間とは質的にも感覚的にも大きく異なっていることは間違いないでしょう。

母という存在

この小説では途中から『母』という存在がとても重要な意味を持ってきます。

それはとても普遍的なことであるとともに、村上龍さんにとっても避けられないことなのだろうなと思いました。



同時に父という存在に関する描写も出てきます。

しかし、それはなぜか否定的な描かれ方をされているようにも思えました。

この対比には何があるのだろう・・・と考えながら読んでいましたが、それはおそらく著者にしか分からないことでもあります。



父と母という存在はそれがどのような存在であっても、絶対に逃げることのできないことです。

良いことも悪いことも全てひっくるめて、切り離すことのできないものなのです。

だからこそ、龍さんはこの作品で父と母のことを描いているのかもしれません。

あといくつの作品を

68歳となっている村上龍さん。

人生100歳とかいう言葉を聞くこともあったりして、そう考えるとまだまだ生きるのかもしれません。



それでも一読者としてはこんなことを考えてしまいます。

あと一体いくつ、この人の作品を読むことができるのだろう。と。

このペースからしたらあと数冊かもしれないけれど、もしかしたらたくさんの作品を生み出してくれるかもしれません。



いずれにしろ僕はこの人の本を読み続けていこうと思っています。

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