感想・要約『夏物語:川上未映子』女性目線から描く、生と死の話です

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ようやく読み終えることができました。

『夏物語』

日本の女性作家、川上未映子さんによる長編小説です。

2019年に『文学界』にて前編・後編の2回に分けて掲載され、2019年7月に文藝春秋より単行本が刊行されています。

第73回毎日出版文化賞 文学・芸術部門受賞作品で、2020年の本屋大賞にもノミネートされています。

あらすじ

大阪に生まれ育ち、東京で小説家として生きる38歳の夏子は、ある思いを抱くようになっていた。

それは『自分の子供に会いたい』というもの。



しかし、決まったパートナーがいるわけでもなく、過去の恋人とのセックスにも嫌悪感を感じていた夏子はパートナーなしでの出産を模索していく。

そんな中で精子提供で生まれ、父親のことを知らない逢沢潤という男性と出会う。

彼は顔も知らない父親のことを探しているのであった。



パートナーなし、セックスなしでも子供を産む方法があると知った夏子だったが、なかなか実行には移せずにいた。

そんなある日、意を決してついに一人の『提供者』の男性と会うこととなり・・・。

川上未映子さんの最新長編

『夏物語』は女性作家である川上未映子さんの最新長編小説となります。

2019年7月に単行本が刊行されていて、『面白い作品のオーラ』みたいなものを感じていたのですが、なかなか読めずにいました。



ですが、つい先日ようやく読むことができました。

単行本で500ページほどのかなりの分量ある作品となっていて、川上さんの作品の中でも一番長い作品となっています。



話は二部に分かれていて、時間軸が大きく異なる話が描かれています。

そして、少し不思議な作品でもあります。



まず最初に描かれている前半の話。

姉と娘が私(夏子)のところへやってきて、豊胸手術を受けようという話をするところから始まるのですが、これは川上さんの芥が賞受賞作である『乳と卵』という作品の語り直しのようなものとなっています。

そこまで長くないこの話が語られた後に、時間が経過した本編とも言える話が始まるのです。

とても難しく、センシティブなテーマを扱った

そして始まる本編の方なのですが、これは夏子が”パートナーなしで子供を産むためにはどうすべきか”を模索するという話となっています。

一般的な倫理観というか、正論を言うのであれば、そんなことをすべきではないと言うのが『正しい意見』なのかも知れません。



しかし、この小説の凄いところはその『正しさ』がなぜ難しいのかと言うことをしっかりと納得できるように描いています。

絶対に男には書くことのできないような、女性作家ならではの感情や表現なんかも説得力を持って描かれているのです。



おそらく女性であれば、共感できる部分がたくさんあるのでしょうし、男であればうーん・・・と考えてしまうような。



そして、この小説は生と死という極めてセンシティブなテーマを描いている作品でもあります。

なぜ子供を欲しいと思うのか?なぜ子供を産みたいと思うのか?



そして、子供を産無ことは『ある種の賭け』なのだと言うことが語られます。

なぜそんな賭けに身を投じることがみんなできるのだろうと・・・。

一つの考え方

そして、この小説ではある一つの考え方が示されます。



”生まれた子供が幸福になるか、不幸になるかは分からない。

だから子供を産むことは『賭け』である。

でも、子供を産まなければ少なくとも不幸を生み出すことはない。

だから子供を産まないことが正しいと言う考え方もあるのでは。”というものです。



「不幸な子供を生み出さないためには、存在させないこと」が良いというのです。

昔からあるような考え方なのかも知れませんが、少なくとも僕はこんな発想はなく、なるほどな・・・と思ってしまいました。



『産むことは一方的で、暴力的である』なんて言葉初めて聞きました。

確かに、産まなければ少なくとも不幸を作り出すことはありません。

それなのになぜ、人は子供を作るのだろうか・・・という。

女であること

おそらく、女性が読むのと男性が読むのとでは、大きく印象が違う小説であると思います。



話の中には、いわゆる「まともな男」はおそらく出てきていません。

逢沢さんも特殊な過去を抱えている人ですし、夏子が会った『提供者』の男。



この男は結構衝撃的な描き方をされています。

まるで男の醜さの結晶のような感じで・・・笑

多分、いずれ何かしらの形で映像化されるような気もしているのですが、どんな描かれ方をするのかも気になりました。



なんか、『アナ雪』のヒットくらいからか分かりませんが、このような「もう男は放っておいて、女たちで頑張ろう」みたいな話が増えているような気がします。

世界的な潮流なのかは分かりませんが、そんなことも思いました。

読み終えてみて

この小説を読んでみて、女性のことが少し理解できたような気がしました。

でも、こういう「自分は分かっている」的な男こそが、作者の嫌悪する男性性のような気もしたりして・・・。



本当は何にも大切なことは分かっていないような気もしています・・・。

それでも、分かっていないことを分かることができた。のかも知れない・・・くらいのところまでは辿り着けていると良いですが・・・。



少なくとも、一つの小説としてとて質が高く、面白い本であることは間違いありません。

是非、読んでみて下さい。

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