感想・要約『新しい目の旅立ち:プラープダー・ユン』新しい目を求めた外的で内的な旅

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ゲンロンより届いた本です。

『新しい目の旅立ち』

東浩紀さんの運営する株式会社ゲンロンより刊行された本です。

2020年2月7日に発売されました。


著者はバンコク出身の作家であるプラープダー・ユンという男性で、翻訳は福冨渉さんによるものとなっています。


タイ出身でニューヨークでもデザイナーとして働いていた著者。

他、映画脚本や短編などの小説も出版している著者がフィリピンにある『黒魔術の島』と呼ばれる『シキホール島』に滞在した時のことを書いたものです。


島で出会う『魔女』との話もありながら、著者自身の内的発見に伴う哲学的な話までが写真付きで書かれています。

『新しい目』とは

”他人や環境に飽きを覚えたら、孤独な時間や場所を見つけそこに逃げ込むことができる。だが、自分に飽きを覚えたらどうすればいいのだろう。”

こんな問いからこの本は始まります。


物書きとして8年ほどの時が経った著者は、自分の頭の中にあるものに対するこの上ない『飽き』を感じていたといいます。


それまでに自分の中に培われ、蓄積されてきた物の見方や思考のパターンのようなもの。

自分の中にある同じ引き出しをを開けて、古いものを引っ張り出して作られる考えや、書いているものにうんざりしていているのだと。



そんな著者が『新しい目』を求めて訪れたのがフィリピンにあるシキホール島という地です。

著者は日本の財団が主宰するフェローシップで選出され、フィリピンを訪れました。



この本は、その時の滞在記録をまとめたエッセイともなっています。

シキホール島とは

シキホール島とは、フィリピンの南にある小さな島です。

人口は10万人に届かないほどの島であり、年を通して気温の高い南国の島です。



リゾートやダイビングスポットとしての観光業を主産業としている島ですが、魔術などの神秘的なものは流行する島としても知られています。

『マナナンガル』と呼ばれる魔女がいると信じられていたりする『黒魔術の島』と呼ばれることもあります。




正直、この本を読むまでこの島の存在は全く知りませんでした。

フィリピンにも行ったこともなく、土地勘もなければ文化に対する理解もほとんどありません。



こんな島があったんだ・・・と思いながら読んでいたこの本。

著者がこの島を訪れる、文字通りの旅の記録でありながら、著者の内面的な旅の記録ともなっている本です。

事後的に書かれた

著者がこの地を訪れたのは2009年頃のことです。

それからしばらくの時間を経て書かれたのがこの本となっています。



これは当時の体験を『事後的に』書いています。

読んでいて、この『事後的に』というのが実はとても重要なのではないかと思いました。



著者は時間の経過を経て、あの時のことがいかに重要で、今の自分と自分の思考などに影響与えているかを感じているからです。

おそらく、それは直後に書いた旅の記録では決して出てくることのない深みをこの本に与えています。



著者は時間を経ることで、思考しています。

経験として獲得した当時の経験を経て、様々なことを思考しているのです。



それによって当時の経験がどういう意味を持っているのかを再確認しているようにも思えるのです。

著者は外的な旅をきっかけとして、長い長い内的な旅をしていて、その両面を書いている本なのです。

旅をするとは

自分はタイ文学のことや、タイやフィリピンに関する知識もあまりありませんが、一つの読み物としてとても面白く読めました。

旅をするとはこういうことなんだな・・・と思いましたし、思考するとはこういうことなんだなとも思い、凄く勉強になりました。



そして、どこか知らない土地へ旅へ行きたくなります。

このシキホール島もそうですが、とにかく何処かへ旅に行きたくなります。



誰かと一緒に行く旅の魅力もありますが、こう言った一人だけの『新しい目』を求める旅もいいものなんだな・・・と。



この本で書かれているような内的な発見は、決して他者が見て分かるものではありません。

そして、自分自身でもはっきりとは分からず、事後的に理解していくものなのかもしれません。



しかし、このような発見はとても重要なものです。

少し大袈裟かもしれませんが、世界とって絶対的に『善』なことだと思います。



自分自身に対する『飽き』はおそらくほとんどの人が経験することではないでしょうか。

そんな時に手助けともなってくれる本でもあると思います。

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