
2018年の韓国映画です。
『バーニング 劇場版』
2018年の韓国映画で、日本では2019年2月1日に公開されました。
村上春樹さんの短編小説『納屋を焼く』を原作としており、監督はイ・チャンドンさん。
主役となるジョンス役をユ・アインさん、ヘミ役をチョン・ジョンソさん、ベン役をスティーブン・ユァンさんが演じています。
原作とは異なり、韓国を舞台としており、ストーリーにも独自の解釈を加えたものとなっています。
あらすじ
韓国に暮らす青年ジョンスは大学を卒業するも定職はなく、アルバイトをしながら小説家を志していた。
そんなある日、整形したと言う幼馴染であるヘミと再会する。
久しぶりに再会した二人はお互いのことを語り合い、ヘミは最近パントマイムを習い、アフリカへ旅行するためのお金を貯めていると言う。
そして、ジョンスはアフリカへ旅行へ行っている間、飼っている猫に餌をあげておいて欲しいと頼まれる。
ヘミはアフリカへ旅行へ行ってしまい、ジョンスは言われた通りにヘミの部屋に通うが猫の姿は見当たらなかった。
そして半月が経ち、ようやくヘミから帰国するという連絡が来る。
無事帰国したヘミだったが、ケニアのナイロビ空港で知り合ったお金持ちの韓国人の男ベンと一緒だった。
ベンは人当たりの良さそうなお金持ちの男であり、ジョンスとヘミはそれから何度か3人で会うこととなるが、ベンは自分の持っている『ある趣味』のことをジョンスに語り・・・。
村上春樹さんの短編を原作とした
『バーンング 劇場版』は2018年の韓国映画です。
村上春樹さんの短編である『納屋を焼く』という話を原作としている映画です。
この映画を見るにあたり原作も読み直しました。
短い話でありながら、なかなかの不気味さを持っている短編です。
村上さんの小説は映像化するのが難しいと言われているのですが、『短編に解釈を加え再構成する』というような形だとうまくいっているものが多い気もしています。
まさにこの『バーニング 劇場版』はそんな映画となっていると思いました。
この監督は村上春樹さんの作品のことを凄くよく理解しているなと思いました。
原作にはない『リトルハンガーとグレートハンガー』の話なんかも村上春樹的だな・・・と思いましたし、
猫やパスタなんかも出てきたりして、なるほどな・・・というようなシーンも多かったです。
舞台は韓国
原作は舞台は明確にはされていませんが、日本のどこかとなっています。
日本のどこかにいる30代の既婚男性が主役で、ある男から聞く『納屋を焼いている』ということに関する話となっています。
映画版では主役は20代前半の青年で、お金持ちの男が焼いているものもビニールハウスと、若干の変更がなされています。
しかし、大筋は原作と同じままです。
とてもシンプルに要約すると
”あるひと組の男女。そこにお金持ちの男が現れる。男は納屋(ビニールハウス)を焼いているという趣味を打ち明ける。そして、女がいなくなる”
という話です。
謎の残る話でもありますし、決してその全てが明確にされることはありません。
ベンの語る『ビニールハウスを焼いている』という趣味も言葉通りに受け取ることもできますが、人知れず人を殺しているという意味に取ることもできます。
映画版では、そう思うように作られている部分もあったりしますが、明確な証拠もなければ、劇中ではっきりされることもありません。
持つものと持たざるもの
この劇場版でテーマとされている話が前半でされています。
それは『リトルハンガー』と『グレートハンガー』の話です。
飢えている人には2種類いて、それがリトルハンガーとグレートハンガーだというのです。
そして、それはジョンスとベンのことを示しているものだと思われます。
ジョンスは『いわゆる普通』に手が届かずにいる青年です。
家族は暴力事件で裁判沙汰になり離散していて、自分も仕事もなくアルバイトをしています。
小説家を目指しているというものの、何を書けばいいか分からずにいます。
対するベンはジョンスの持っていないたくさんのものを持っています。
何をしているかよく分からないけれどお金落ちで、人並み以上の恵まれた生活をしています。
友人などもたくさんいるようで、女性にも全く困っていないような生活を送っています。
しかし、ベンはどこか退屈そうにしています。彼は持っているけれど、人生の意味を見出せない『飢えたもの』でもあるのです。
おそらく見えているものが全く違うであろう二人の間になされるのが『ビニールハウスを焼いている』という話なのです。
ベンはそれを楽しんでいるように語るのですが、ジョンスはその話をどう理解していいのか分からずにいます。
そして、それは見ている側がこの映画全体に感じることでもあります。
一体何が起こっているんだろう・・・?っていう。
ラストシーンは
ラストには原作にはないある展開が追加されています。
しかし、このシーンはいろんな見方ができます。
見た通り、リトルハンガーであるジョンスの怒りが爆発したとも見えますし、最後にようやく何かを書き出した『ジョンスの書いているものの中の話』だと見ることもできます。
個人的には後者ではないかと思いました。
ジョンスはベンやヘミとの間に起こったことを通じて、世界の真実というか一端に触れることとなります。
そして、ようやく『書くべき何か』を見つけることとなるのです。
ジョンスが理解の及ばないベンという男に対して想像力を使い、立ち向かおうとしているかのようでした。
それは村上春樹さんが、世界に立ち向かうための力として小説を書いていることにも通ずるものがあるのではないでしょうか。
後々思い出してみても
見終えていろんなシーンを思い出してみて、本当にいろんなことが含まれている映画だったな・・・と改めて思います。
細かい会話や、あくびなんかにも意味が付与されていて、いくらでも深読みすることのできる映画でもあります。
この監督の他の作品も見てみようかと思います。