感想・解説『海を駆ける』静かなインドネシアの日常に・・・

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続けて深田晃司さんの監督作品です。

『海を駆ける』

2018年5月26日に公開された日本・フランス・インドネシアの合作映画。

監督・脚本は深田晃司さんで主演はディーン・フジオカさん。


他、鶴田真由さん、太賀さん、阿部純子さんなどが出演しています。

全てがインドネシアでの撮影となっていて、フランス、インドネシア、中国などでも公開されている作品。

あらすじ

戦争と津波の爪痕の残るインドネシアのバンダ・アチェ。

アチェの砂浜に一人の日本人男性が漂着する。


正体不明のその男は、NPO法人で災害復興などをしている日本人貴子と息子のタカシらに引き取られ暮らすこととなる。

貴子はその謎の男をインドネシア語で『海』という意味のラウと呼ぶこととする。


そして、日本から貴子の親戚であるサチコも訪れ、ラウの身元を探そうとするが、身の回りで様々な不思議なことが起こり始める。

インドネシアを舞台とした

『海を駆ける』は『淵に立つ』や『よこがお』などの深田晃司さんの監督による映画です。

時期的にはちょうど『淵に立つ』と『よこがお』の間に公開されている作品です。


劇場では見ることはできなかったのですが、昨日AmazonPrimeにて見ました。


この作品はインドネシアを舞台としている作品です。

インドネシアのバンダ・アチェという、おそらく普通に暮らしている日本人はあまり馴染みのない土地が舞台となっています。


僕も正直全く知らなかったのですが、長きに渡る戦争が行われていた土地であるとともに、2004年の地震による津波で甚大な被害を受けている土地でもあります。

そんな土地に不思議な男が漂着するところから物語は始まります。

所々にある悲しみの名残

決して明確なメッセージがあるわけでもなく、解釈は結構見る側に委ねられているような、少し難しい映画であると思います。


深田さんの映画はこのような作品が多いです。

決して手を抜いているというわけではなく、むしろ細かいディティールは本当にこだわった上で、物語には見る側に考える余地が残されています。


おそらく、物語的にもっと山場を作ったり、しっかりと分かりやすいオチを作るということもできるはずです。

それでいて、あえてそれをしていないという感じがします。


描かれているのは静かなインドネシアの日常にも思えます。

そこにラウという『異物』が入り込んでくるものの、ずっと静かに話は進んで行きます。


しかし、所々抱えている悲しみのようなものが垣間見えるシーンがあります。

『私たちは結婚できないの。宗教が違うから。』というセリフや、
『サチコちゃん大学辞めたんだって。』というセリフ。

記者を目指しているイルマの父親は詳しくは描かれませんが、政府からの拷問を受け障害を抱えていたりもします。


そんな、それだけでも映画になりそうなほどの傷をみんなが多かれ少なかれ抱えていることが分かります。

しかし、この映画ではその傷に対する共感や、解決を描こうとはしていません。

ラウとはなんなのか

この映画でキーとなる人物がディーン・フジオカさんの演じているラウという人物です。

ラウは裸でアチェの砂浜に漂着した謎の人物です。


日本語を理解しているようでありながらも詳しいことは語らず、インドネシア語も普通に話せます。


そして、不思議な力で人を助けたり、導いたりもします。

さらに、人の命を奪うような様子も描かれています。
(これは結局どうなったのかは描かれません)


彼がなんなのかは決して明確に劇中で語られることはありません。

しかし、彼の存在こそがこの映画を進めていく推進力ともなっています。


ラウとインドネシア語で『海』という意味の言葉だそうです。

彼はその言葉の通り、『海』を象徴している人物なのかもしれません。


海は人々を生かしている重要な資源であるとも言えます。

しかし、それは突然津波となり人の命を奪うこともあります。


それは、2011年の東日本大震災を知っている日本人であれば誰しもが知っていることでしょう。

それは突然現れて、人々を揺さぶって去っていく。

命を救い感謝されることがある一方で、最後には子供を殺したと追い立てられ去っていきます。

少し笑えるようなシーンも

インドネシアでの日常を描きながら、細かいセリフにとても深い意味があるのではないかと思えるようなシーンも多いです。


そして、クリスの告白のシーンと、その意味が分かる船の上でのシーンは思わず笑ってしまいました。


他にも水しか出ないシャワーと聞きながら、『あ、お湯出てきた』というシーンや、テレビのインタビューの後に突然現れるラウのシーンなど、小さく微笑んでしまうようなシーンがある映画でもあります。


きっと人生の違うタイミングで見れば、また違った感想を抱く映画だと思います。

そしてインドネシアに行ったことがある人であれば、またきっと感じることがあるのでしょう。

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