
2019年11月30日に河出書房新社より刊行された本です。
芥川賞を受賞している女性作家である川上未映子さんを特集した1冊で、約300ページほどの本となっています。
内容は盛りだくさんで、川上さんによる特別創作や、単行本未収録作品が収録されていたり、インタビュー、対談、エッセイ、論考と様々な角度から一人の作家を取り上げたものとなっています。
対談の相手として蓮實重彦さんや、永井均さんなどが登場。
エッセイは高橋源一郎さん、町田康さん、江國香織さんなど。
『私の一冊』という部分では、女優の夏帆さんや、村田沙耶香さんなど、いろんな分野からたくさんの人が文章を寄せています。
川上未映子さんという作家
書店でこの本を見つけて買って読んでみました。
川上未映子さんの小説は数年前からよく読んでいたのですが、この本を見つけたのは偶然でした。
川上さんの本は結構読んでいると思っていたのですが、この本を読んで知らない作品がたくさんあるのだということも知りました・・・。
川上未映子さんは『乳と卵』とう小説で芥川賞を受賞しています。
その後も『ヘヴン』、『すべて真夜中の恋人たち』などという作品を発表していて、最新作が『夏物語』という長編となっています。
(これもほぼ同時期に購入し、これから読む予定)
作家としてはすでに独自の地位を獲得しているとも思えます。
決して読みやすくはないかも
川上さんの書く作品や文章は、決して読みやすいものではないものもあると思います。
『ヘブン』とかは比較的読みやすいものでしたが、『わたくし率 イン歯ー、または世界』なんかは少し読むのに技量がいる作品の様にも思えます。
川上未映子さんという作家は、言葉というものに対して、とても繊細で鋭い感覚を持っている作家だと思います。
そして、作品ごとに結構色が違うというか、実験的なことをやっているものもある様な気がします。
女性作家として
この本の中でも結構詳しく書かれていたりもしますが、川上さんの小説には女性にしか書くことのできない様なものが多いです。
同じテーマで、同じ物語を男性作家が書いたとしても、おそらく全く違う作品になる様なものばかりです。
芥川賞作となった『乳と卵』なんかはまさにそのような小説です。
これは初潮を迎える女性のことを描いた作品です。
こんなこと、絶対に男は書けないなと思います・・・。
書いたとしてもおそらく表層的なものとなってしまいに違いありません。
そして、最新作の『夏物語』は『乳と卵』のリブート作品ともなっているとのこと。
子供を産むことと幸福と不幸
この本の中で個人的にとても面白いなと思った記述が、永井均さんとの対談のところに書かれていた事です。
ここでは図を使って、子供を産むことと幸福か不幸かということが説明されています。
そして、それは『夏物語』に登場する人物の思想ともなっているとのこと。
それは説明するとこんな感じになります。
幸福な人生を生み出すことは○
不幸な人生を生み出すことは×
幸福な人生を生み出さないことは△(良くはないけど悪くもないので)
不幸な人生を生み出さないことは○
つまり、産まなければ○か△なのだけれど、産むということは○もあるけれど×を生み出してしまうかもしれないのです。
言われてみれば確かにな・・・という感じ。
これは反出生主義という考え方といいます。
産まないことは△か○なので問題ないけれど、産むということは×があるので道徳的に悪いことをすることとなるのです。
なかなかに面白い考え方ですな・・・。
最後に
なかなかに盛りだくさんな内容でした。
そして、同じく女性作家である村田沙耶香さんのコメントがとても良かったです。
村田さんは『ヘヴン』という小説についてこの様に書いています。
『この作品が存在していない世界から、存在している世界に来ることができて良かったなあ』
これは作家としては言われて一番嬉しい言葉ではないでしょうか。
自分が生み出した作品が、誰かの世界に決定的な影響を与えているのです。
『ヘヴン』も読んだことがありますがとても読み応えがあり、面白かったです。
『夏物語』を読むのも楽しみですな・・・。