感想・要約『みみずくは黄昏に飛びたつ:川上未映子(訊く)/村上春樹(語る)』二人の作家の対談集

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小説家の川上未映子さんによる村上春樹さんのインタビュー集。


2017年4月27日に新潮社より単行本・電子書籍として発売され、2019年の12月に文庫版が発売されました。

文庫版には、文庫版オリジナルの対談が新たに収録されています。


対談は2015年から2017年にかけて行われたもので、途中『騎士団長殺し』の刊行もある中で進められたものです。

表紙には『Haruki Murakami A Long, Long Interview by Mieko Kawakami』という英題が書かれています。

小説家同士の対談集

『みみずくは黄昏に飛び立つ』は小説家である村上春樹さんと、川上未映子さんの対談集です。

対談というよりは、川上さんが村上さんに対してインタビューをするという形式となっています。


二人とも実力のある小説家で、二人とも個人的にとても好きな作家です。

発売されている小説やエッセイなんかはほとんど全て読んでいると思います。


そんな二人の対談ということで、気にはなっていたのですが、今回文庫版が発売されてようやく読むことができました。

この文庫版には、新たに追加で対談が収録されていたりもします。

かなり深い話も

内容はかなーり濃いです。

小説家同士というだけあって、深い小説の話がメインなっていて、なるほどな・・・と思う様なこともたくさんありました。


そして、川上さんは女性であり、女性だからこその視点であったり、村上春樹作品の捉え方をしている様な部分もあったりして、そのあたりもとても興味深かったです。


村上春樹さんがいろんなところで言っている『地下2階』の話なんかもより深く理解できた様な気がしました。


これは川上さんのイラスト付きで説明されています。


地上2階、地下2階の全部で4層の家の絵が描かれていて、地上の1階は家族や友人などがいる部分。

地上2階は自分の部屋の様な、自分だけのパーソナルなスペースのことで、地下1階は少し暗い意識の部分。いわゆる私小説が扱っている様な近代的な自我の部分。

そしてその先にあるのが地下2階となっていて、ここが村上春樹さんが小説でいつも行こうとしている場所なのだと言います。


さらに『ヒラリークリントンは、家の1階部分にだけ通用することを言って負けて、トランプは人々の地下室へ訴えかけることを言って勝利を収めた』という様なことも書かれていて、これはなるほどな・・・という感じでした。

全体を通して

読み進めてみて、この本は村上春樹さんの小説や小説家としての歴史の様なものを、とても詳しく解説している本なのだなと思いました。


村上春樹さんの小説の解説本は他にも発売されていたりします。

しかし、これはその様なものとは本質的に異なっています。


何より、村上春樹さん本人が語っているからです。


そして、川上さんの質問はとても的確で、鋭いものばかりです。


川上未映子さんは、10代の頃から村上さんの小説のファンだったと言います。

言うなれば、彼女はリアルタイムで村上さんの小説を読んできた読者でもあるのです。


だからこそ、その質問はとても鋭く深いものとなっています。

読み終えてみて

読み終えてみて思うのは、やっぱり村上春樹って凄いな・・・ということです。


村上春樹さんはやはり現役の日本人作家としては飛び抜けて高いところにいる作家なのだと思います。


そして、このインタビューの最後に語られていることはとても興味深かったです。


村上さんは作家として『善い物語を語り継がなければならない』と言っています。

オウム真理教の地下鉄サリン事件の様な事件は、閉鎖的な悪い物語の結果引き起こされたものです。


それに対抗しうる様な『開かれた善い物語』を語り継ぐのが作家としての使命だというのです。


この発言だけでも、ものすごく高いところにいるのは明らかではないでしょうか・・・。


遥か昔から人は物語を必要としていて、物語を語り継いできました。

その長い長い線上に自分もいるのだと思っているのだろうと思います。


文庫で500ページ弱のなかなかのボリュームでしたが、二人の作家が好きな人ならスラスラ読んでいける本だと思います。

個人的にはとても楽しめました・・・。

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