感想・解説『i アイ:西加奈子』

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前から気にはなっていた本です。
文庫版が発売されたのでようやく読みました。

『i アイ』

小説家・西加奈子さんによる小説で、2016年10月に発売されました。

文庫版はポプラ社から2019年11月に刊行。

巻末には又吉直樹さんとの対談も収録されています。

あらすじ

シリアで生まれたアイは、養子としてアメリカ人の父親と日本人の母親の元で育てられた。

両親は優しく、アイの望むものはなんでも与えてくれたがアイは次第に自分が『不当な幸せ』を享受していると感じる様になる。


日本の学校に通うこととなったアイは、没個性的なその環境を好みながらも、それでもどこか居づらさを感じてしまっていた。


一方で、世界ではどこかで悲惨な天災や人災で命を落とす人がたくさんいることを知り、アイはその人数をノートに書き留める様になる。


そんな中、アイは一人の友人ができる。

ミナというその女の子は壁を作ることはなくアイと接し、次第に深い関係性へとなっていく。


そして2011年3月11日、アイの住むに日本を大きな地震が襲った。

アイの両親はアメリカへ向かい、アイもすぐに来る様に言うのだが、アイは日本に残ることを決め・・・。

西加奈子さんの小説

西加奈子さんの『i アイ』ようやく読むことができました。

西加奈子さんの小説は『きいろいゾウ』と言う映画化もされた作品を過去読んだことがあったのですが、ちょっと苦手かもな・・・と言う印象の書き手でした。


しかし、あれから10年ほど経ってこの『i アイ』と言う作品を読んでみて、こんなに深みを持っている書き手だったんだな・・・とすごく思いました。


西加奈子さんは『サラバ!』という小説で直木賞を受賞しています。

今となっては日本の女性作家としては確固たる地位を確立している様に思えます。


10年という時の経過は凄いもんですな・・・

『大きな物語』と『小さな物語』

主人公のアイという女の子は、少し特殊な境遇にいる人物です。

シリアで生まれ、養子としてアメリカ人の父と日本人の母との間で育てられます。


その環境を恵まれているということを理解しながらも、自分がなぜここにいるのか、自分はここにいていいのか。ということを強く感じている女の子です。


それは自分自身のアイデンティティという、とてもパーソナルな『個』としての話です。


そんなアイは、自分を取り巻く世界、そしてもっと広い世界全体をとても冷静に、とても正確に見ています。

世界ではたくさんの飢えている人がいる。不本意に命を落としてしまう人がいるのだということを常に意識しているのです。


この小説ではいわゆる『大きな物語』と『小さな物語』が並行して、同時に、そしてうまく描かれているのです。


歴史や戦争、災害などという『大きな物語』の話と、個人のパーソナルな『小さな物語』の話です。


それでいて、とても文章自体もとても読みやすく、ラストは感動的なものとなっていました。

他にもたくさんのテーマが

この作品には他にもたくさんのテーマが含まれています。


日本の学校に通っている時の描写なんかは、日本の教育が持っている歪さを描いています。


LGBTという性的マイノリティの話にも出てきます。

アイが親友となるミナはレズビアンです。

そんな彼女がどの様なことを考え、どの様に生きていくかという部分も描かれているとともに、それを知ったアイの様子も描かれています。


終盤に出てくる妊娠の話なんかは、本当に女性にしか書けない感情の様なもので溢れていました・・・。

外の世界を見る

西加奈子さんの『きいろいゾウ』を読んだ時、なぜ苦手だと思ったのか考えてみると、あの小説は視線が内側に向きすぎていたからではないかと思いました。


しかし、この『i アイ』はそういった内面の描写の部分は残しながらも、『外を見る視点』というものが見事に描かれています。

西さん自身も純粋な日本の生まれと育ちではなく、だからこそ描ける、外の視点からの日本と世界というものがうまく描かれています。


こういうことを描ける人はとても貴重な気がします。

そして、ラストの海のシーンはとても良かったです・・・。

小説を読んで泣きそうになるという経験はなかなかないものです。

頭の中に情景を思い浮かべて、それで感動させるという、小説家って本当に凄いな・・・と改めて。


そして、直木賞を受賞している『サラバ!』という小説。

これもぜひ読んてみようかな・・・。

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