
『蜜蜂と遠雷』のスピンオフ小説集です。
『祝祭と予感』
直木賞と本屋大賞を受賞している恩田陸さんの小説『蜜蜂と遠雷』のスピンオフとなる小説集。
2019年10月4日に発売されました。
松岡茉優主演で実写映画化もされていて、映画公開に伴って発売された本です。
〇〇と〇〇というタイトルのつけられた短編が6編収録されています。
あらすじ
芳ヶ江国際ピアノコンクールを終え、入賞した3人は入賞者の特典としてコンサートツアーを回っていた。
マサル・カルロス・レヴィ・アナトールと栄伝亜夜、風間塵はパリでの公演を控え東京に来ていた。
音楽の話や過去の話なんかをしながら、墓参りに来ていた3人は・・・。
スピンオフ
『祝祭と予感』は『蜜蜂と遠雷』のスピンオフとなる小説です。
『蜜蜂と遠雷』は映画も見て、原作も読んだのですが、これが本当に面白い作品でした。
登場人物が本当に魅力的な人たちばかりで、話も『音楽』という難しいテーマを扱っていながらも、すごく面白い作品となっています。
この『祝祭と予感』はその登場人物たちの過去や、明かされていなかった部分が語られています。
風間塵やマサルの先生との出会いの話もあれば、審査員となっていたナサニエルと三枝子の話。『春と修羅』という曲に関する話もあったりして、『蜜蜂と遠雷』のファンであれば面白く読める内容となっていると思います。
一つ一つの話も決して長くはなく、非常に読みやすいです。
恩田陸さんの小説はあまり読んだことがなかったのですが、この『蜜蜂と遠雷』シリーズを読んで、さすがだな・・・と思いました。
文章の一つ一つがとても簡潔で読みやすくなっていて、それでいて比喩的な表現も要所で的確に挟み込まれています。
すごく読者のことを考えている書き手なんだなと思います。
どれだけ作者の言いたいことが込められていても、その手段が間違っていては誰かに届くことはありません。
この人の小説はその『届け方』を非常に上手く考えられているような気がします。
魅力ある登場人物たち
小説の登場人物にここまで実在感を感じて、会ってみたいと思うのはなかなかないような気がしました。
正直僕は普通に、この作品に出てくるピアニストのファンになっています。
プロのピアニストのひくピアノというものをあまりしっかりと聞いたことがなかったのですが、この作品を読んでピアノというものの奥深さに興味を持ったことも間違いありません。
中でも作者も特に力を入れて描いていると思われるのが風間塵という少年。
このキャラクターは、普通の人には見えていない何かが見えている天才として描かれています。
そして、どこへ行っても浮いてしまうようなつかみどころのない人物として描かれています。
おそらく、この話は彼を起点として駆動しているのではないかと思います。
他の作品でも時々登場する、こういう『権化』のようなキャラクター。
こういうキャラクターはどこか浮世離れした存在でありながらも、本当に魅力的です。
ピアノや音楽という、実態のないものだからこそ彼のようなキャラの魅力がさらに強まっているともいえるかもしれません。
個人的に好きな
個人的に好きな話が、マサルとその指導者であるナサニエルとの話です。
マサルは二人の先生から師事を受けそうになります。
一人は音楽性が混乱するからとピアノのみをやろうとさせるのに対し、もう一人はマサルの場合は逆に音楽性を広げることになるからと、他の楽器もやってみることを勧めます。
結果、マサルは後者の先生から師事を受けることとなります。
トロンボーンを始めたこともプラスに働き、彼はピアニストとして力をつけていくこととなります。
この先生のような考え方はとても好きです。
一つに絞るのではなく、色々とやってみることもプラスになるのだということは、なかなか勇気のいることです。
しかし、それをプラスにできるだけの器を持っていることを見抜いていたのです。
先を見てみたい
この作品に出てくる人物たちはとても若い人ばかりです。
未来があり可能性のある人物ばかりともいえるでしょう。
この先彼らがどうなっていくのか?というのは読んだ人ならきっと興味を持つ部分だろうと思います。
その一部はこの『祝祭と予感』にも書かれているのですが、10年後、20年後彼らがどうなっていくかは分かりません。
何かしらの形で音楽と関わっていることは間違いないかとは思うのですが、必ずしも上手く行っているとは限りません。
続編はあるのでしょうか・・・?
個人的にはすごく読んでみたいです・・。