感想・解説『トニオ・クレーガー:トーマス・マン』ノーベル賞作家の自伝的小説

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ドイツの小説家トーマス・マンの中編小説です。

『トニオ・クレーガー』

『魔の山』、『ブッデンブローク家の人々』などで知られるドイツ人の小説家トーマス・マンによる中編(短編)小説です。


発表は1903年で、日本語訳版も複数刊行されています。

今回読んだのは光文社古典新訳文庫より刊行された浅井晶子さんによる訳のものです。


トーマス・マンは1929年にノーベル文学賞を受賞しています。

その他の著作は『ヴェニスに死す』、『ヨセフとその兄弟』など。

あらすじ

舞台は20世紀初頭の北ドイツの町リューベック。

商人の息子であるトニオ・クレーガーは文学を好む少年であった。


真面目で堅実な家庭の多い学校において、少し浮いた存在であったクレーガーは同級生の男子生徒であるハンスや、金髪の少女であるインゲボルグに恋心を募らせるも、想いが成就することはなく時は流れていった。


クレーガーはさらに文学的な精神的な世界へと踏み出すこととなっていき、名の知れた作家となっていく。


そんなクレーガーは南ドイツで知り合った女流画家であるリザヴェータに自分が芸術家ではなく市民に過ぎないのではないかということに気づかされる。

そして、クレーガーは北へ旅へ出ることとなり・・・。

トーマス・マンの自伝的小説

トーマス・マンの『トニオ・クレーガー』読みました。

トーマス・マンの小説は『魔の山』と『ブッデンブローク家の人々』は読んだことがあり、凄い作家なのだと言うことは知りながらも、なかなか他の作品は手に取ることができずにいました。


そんな中でこの『トニオ・クレーガー』という本を書店で見つけ、買ってみました。

『トニオ・クレーガー』はトーマス・マンの小説の中ではとても手に取りやすい小説です。


分量も決して多すぎず、今回読んだ文庫版も解説も含めて200ページほどでした。

内容に関する予備知識は全くなく読んだ本だったのですが、この小説にはトーマス・マンの極めてパーソナルな部分をさらけ出している小説だなと感じました。

芸術家と市民

主人公のクレーガーは、普通の人とは少し異なる独特な自意識を持っている人物です。

小さい頃から文学を嗜み、次第に作家として名を上げていくこととなります。


芸術家としての自意識も持ちながらも、自分は一市民に過ぎないのではないかという、選民意識と市民意識との間で揺れているのです。


途中『芸術家は人間として死んでいなければならない』というような一文があります。

読んでいて、個人的にここにトーマス・マンの伝えたいことを感じたような気がしました。


トーマス・マンもリューベックの裕福な商家の家の生まれです。

そして、次第に作家として名を上げていくこととなります。


まさに、この小説のクレーガーと同じような境遇です。

この小説の中でクレーガーが語っていることは、ほぼほぼマンの言いたいことと考えていいのではないかと思いました。

芸術、創作者の多くに共通する

この小説は、小説家だけでなく、芸術的な何か。創作的な何かに関わっている人にとってはとても共感できる何かが含まれているように思えました。

それは表層的なものではなく、極めて本質的な部分で感じることのできる何かな気がします。


普通の人とは違うという自意識を持ちながらも、自分が芸術家として成立していくためにはいわゆる『普通の人』たちからの支持が不可欠です。

そういう意味で、芸術家としての成功は普通の人たちに支えられているとも言えるのです。


しかし、それは作り手からすると少し複雑な感情でもあるのだと思います。

実際に大衆に理解されないことが権威であるというような文化や感覚は様々な国において存在している価値観です。

大衆に理解されることはある意味で芸術性の低さを示すことでもあるのです。

旅に出るクレーガー

クレーガーは物語の終盤で北へと旅に出ることとなります。

読んでいて、この辺りは少しワクワクしました。


普段とは異なる何処かへ、何かを求めて向かうような話は普遍的にワクワクする何かがあるように思えます。


そして、最終的にクレーガーはある結論へと達することとなります。

これはまさにトーマス・マンの感情のように思えました。


海外文学としてもとても読みやすいものとなっていると思います。

ぜひ、手にとってみて下さい。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*