感想・要約『沈黙する知性:内田樹×平川克美』耳を傾ける言葉とは?

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内田樹さんと平川克美さんの対談をまとめて、加筆したもので、2019年11月11日に夜間飛行より発売されました。

第0章から第5章までの実質全6章となっていて、350ページほどの本です。


2人は小学生の頃の同級生であり、60年来の付き合いになるそうで、大学卒業後は一緒に会社を経営していたこともあるとのこと。

掲載されている内容は多岐にわたり、日本における知識人の話や、村上春樹さんの話。グローバリズムの話もあれば、吉本隆明さんの話もあります。

内田樹さんの新刊

以前から好きで、よく読んでいる内田樹さんの本。

新刊が発売されたので早速読んで見ました。


今回は平川克美さんとの対談をまとめたものとなっています。

直接的な続編というわけではないのですが、同じく夜間飛行から刊行されている『困難な成熟』という本に続くものな気がします。(装丁もよく似ています。)


対談本ということで、とても読みやすく、内容も興味深いものばかりでした。

知的な言葉も散りばめられながら、誰にでも読めるものとなっているような気がします。


『階層』に関する話や、村上春樹さんの話なんかは個人的にとても面白く読めました。

差別と階層

第1章の『知識人はなぜ沈黙するか』では差別と階層について語られています。

ピエール・ブルデューの研究にも言及しながら、フランスでの階層とはどういうものなのかが書かれています。


フランスは日本以上に階層化がはっきりとしており、階層間の移動はほぼ不可能な社会だと言います。

中流階級の出自の人が『後天的に』身につけた上流階級らしさのようなものは、すぐにバレてしまい、その『格差を解消とするふるまい』こそがその人を出自階級に釘付ける。というのです。


フランスで実際にそのような社会に触れたことはないので、はっきりとは分かりませんが、日本でも似たような部分はあると思います。

おそらく、多くの人が肌感覚としては分かるのではないでしょうか?


それは残酷なことでもありながら、確かに存在している世界の真実でもあります。

たとえ、努力することで階層を上昇することができても、その『努力して手に入れた』という事実が出自の卑しさを露呈する・・・というのです。

おばけ作家・村上春樹

そして第3章は作家の村上春樹さんについて書かれている章です。

内田樹さんは村上春樹さんのファンであり、研究家かと思えるほど内田さんの話には村上春樹さんが出てきます。


僕自身も村上春樹さんの小説はとても好きで、内田さんの説明でなるほどなと思うようなことも多々あります。

個人的にはこの2人の本はセットで読むと、その全貌が少しでも理解できるのではないかと思います。


この章では、村上春樹的な『あったかもしれない世界』を想像する想像力が大切だということが書かれています。


そして、構築的に話を書かない村上さんの執筆スタイルにも言及されています。


村上春樹さんは構築的に小説を書かない人です。

先に結論を決めることはなく、そこにたどり着くために話を進めていくという書き方はしないのです。


だからこそ生まれる魅力のようなものがあり、それは構築的な小説とは本質的に違います。


中でも、『途中差し込まれる本編とは直接的には関係ないように思えるエピソード』についての話はなるほどな・・・と思いました。

先に結論が決まっていて、そこに向かっていく話の中で、装飾的に使われるそのような話は、読んでいて「つらい」ものとなります。

対して、村上春樹さんのように自分自身も先のことが分かっていない状態で書き進められる小説は、読んでいる時のワクワク感が違ってくるのです。


これは決して素人が真似しようとしてできることではありません。

確かな力量があるからこそできる離れ業でもあります。

読み終えてみて

とても読みやすい本で、あっというまに読み終えることができました。

2人ともとても頭のいい人なんだな・・・ということが文章から伝わってきます。


内田さんは難しいことを、誰にでも分かるような文章で伝えることが本当に上手い人です。

そして、その言葉は実際にたくさんの人に届いているのだから凄いなと思います。


『沈黙する知性』の第0章は『耳を傾けるに足る言葉はどこにある』とう章です。

題の通り、たくさんの情報があふれる現代において、一体どのように情報を取捨選択し、耳を傾けるべきかということが書かれています。


この章にもいろいろなことが書かれていますが、僕は内田さんのような人の言葉こそが耳を傾けるに足る言葉だと思いました・・・。

読んでいてそんなことを思いました。

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