
早速映画館で見てきました。
『楽園』
2019年10月18日に公開された日本映画です。
吉田修一さんの短編集である『犯罪小説集』を原作として瀬々敬久の監督・脚本で製作されました。
とある限界集落で起きた事件を巡る人間模様を描いた作品となっています。
綾野剛さんや杉咲花さん、村上虹郎さん、佐藤浩市さん柄本明さん、黒沢あすかさんなどが出演しています。
主題歌はRADWIMPSの野田洋次郎さんが作詞・作曲し、上白石萌音さんが歌う『一縷』という曲です。
あらすじ
田園の広がるとある地方都市で、1人の少女が失踪する事件が起きる。
愛華というその少女は、Y字路で別れるまでは友人である紡とと一緒であった。
村人たちの捜索も虚しく、愛華ちゃんは見つかることはなく12年が経過する。
友人であった紡は、罪悪感を抱えながら成長していっていた。
そんなある日、祭りの笛の練習の帰りに紡は後方から近寄ってくる車を恐れ、転んでしまう。
車から降りてきたのは中村豪士という青年であった。
転んだ時に壊れた笛を一緒に買いに行き、2人は心を通わせていくこととなるのだが、祭りの日に再び事件が起きる。
そして、田中善次郎は妻を亡くし、千葉からUターンで村へ戻ってきていた。
愛犬のレオとともに静かに養蜂を営みながら暮らしていたのだが、あることをきっかけに村から孤立していくこととなり・・・。
吉田修一さんの小説原作
『楽園』は『悪人』や『怒り』など映画化されている作品も多い吉田修一さんの小説です。
原作は未読なのですが、短編小説集である『犯罪小説集』に収録されています。
『悪人』も『怒り』もそうでしたが、吉田修一さんの書く話は決して明るい話ばかりではありません。
しかし、確かに存在している現実の一部をしっかりと切り取っている作品が多いです。
見ていて楽しいような作品ではなく、後味も悪いのですが、見終わった後にいろんなことを考えさせられます。
今回の『楽園』もまさにそのような作品です。
決して他人事ではない
この映画ではいくつかの悲劇的なことが起こります。
この映画を見ていてずっと思っていたのは、決して他人事ではないな・・・ということでした。
舞台となっているのは、とある山奥の限界集落です。
高齢者ばかりとなってしまっている村での少女失踪事件が描かれます。
結局事件の真相は分からないまま12年が経過し、そこでまた別の展開を見せていくこととなるのです。
村の人たちは事件の真相が分からず、忘れることもできずにいます。
そんな村の人たちは事件を何とかして完結させるべく、恐ろしいことをします。
村にとって余所者である豪士という青年に罪を被せることで納得しようとするのです。
真相は明らかにはされないのですが、おそらくこの青年は罪を犯してはいません。
そして、今まで何度も迫害を受けてきた悲しい過去を抱えている青年でもあります。
彼は、村人たちからの迫害を受けて次第に正気を無くしていきます。
そして、悲劇的な最期を迎えることとなります・・・。
善次郎さん
そして、並行して語られるのが佐藤浩市さんの演じている善次郎という人物の話です。
彼は村を離れていたのですが、Uターンで村へと戻ってきます。
村人からは好意的に受け入れられているかのように見えたのですが、村おこしに関わるあることをきっかけに村八分を受けてしまうこととなるのです。
彼もまた、人々からの迫害によって正気を無くしていくのです。
この様子はなかなかにリアルであり、とても恐ろしいなと思いました。
閉鎖的な村の秩序を保つために必要なことだった。と村の内側にいる人は思わざるを得ないかもしれません。
しかし、外から客観的に見るといかにその様子が異常であるかが分かります。
紡という少女
そんな事件の当事者でもあり、全てを客観的に見ているのが紡という少女です。
彼女は愛華ちゃんが失踪する直前まで一緒にいたのです。
彼女は真相を知ることもできずに、悲しみを抱えている人物でもあります。
大人になった彼女は村を出て東京へ行くのですが、どこか悲しさをずっと抱えている少女でもあります。
そんな彼女が最後に村に戻ってきて、豪士の母親のところを訪ねるシーンがあります。
ここでの会話はとても重要なものではないかと思いました。
最後に
個人的な感想としては、やはり「閉鎖的な世界って怖い」ということです・・・。
関わる人が固定化してしまい、排他的になってしまうと次第に偏狭的になっていきます。
そして、そのことに気がつくこともできないのです。
その異常性を指摘してくる誰かのことを敵に仕立てあげることで、秩序を保つような部分は恐ろしくもありながら、人が持っている防衛本能なのかもしれないなとも思いました。
後味は悪いですが、とてもいい映画だなと思いました。
原作はまだ読めていないのですが、時間があれば読みたいと思っています。