
とてもいい映画でした。
『そして父になる』
2013年に制作、公開された日本映画です。
監督は是枝裕和さんで、主演の父親役は福山雅治さん。
共演として尾野真千子さんや真木よう子さん、リリーフランキーさんなどが出演しています。
第66回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品され、審査委員賞を受賞しています。
日本アカデミー賞などの国内の映画賞や、国外の映画賞でもたくさんの賞を受賞している映画です。
あらすじ
建築会社に勤めるエリートである野々村良多は、妻のみどりと6歳になる息子の慶多と3人で暮らしていた。
息子の慶多は私立の小学校にも合格し、3人は幸せに暮らしていた。
そんなある日、良多とみどりは慶多の生まれた群馬の前橋の病院から電話を受ける。
『重要な知らせがある』と聞いて病院を訪れた二人は、血液検査の結果、子供の取り違えが起きていたことを告げられる。
取り違えの相手は群馬で小さな電気屋を営む斎木という家族であった。
子供のことを考え、二つの夫婦は早めの結論を模索すべく交流を進めてくのだが・・・。
実際に起きた取り違え
『そして父になる』という映画。
最初に見たのは5年ほど前だった気がします。
是枝裕和さんが監督している映画を集中的に見ていた時期があって、この作品も見ました。
これは子供の取り違えという、現実に起きたことを基にして作られている映画です。
『ねじれた絆』という本を参考に作られているそうです。
『万引き家族』で今や世界的に有名になったとも言える是枝さんの映画というだけあって、この作品も本当にいい映画でした。
二つの家族
この映画では子供を取り違えられた二つの家族を中心に進んでいきます。
一つは福山雅治さんと尾野真千子さんの家族です。
こちらはおそらく社会的にも高い位置にいる家族であり、経済的にも恵まれている家族です。
福山さんの演じている良多という人物は、イケメンで仕事もできる、いかにもエリートサラリーマンという風な人物です。
もう一つの家族は、リリー・フランキーさんと真木よう子さんによる家族です。
彼らは群馬の田舎で小さな電気屋を営んでいる家族です。
子供も多く、決して経済的には豊かには見えないのですが、とても楽しそうに暮らしている家族でもあります。
こちらの家族はおそらく意図的に「血の通った人間的な」家族として描かれています。
対照的に見えるような二つの家族の間で子供の取り違えが起きてしまいます。
嫌な奴に見えるけれど・・・
福山さん演じる良多という人物は、優秀でありながらも人の気持ちが理解できない「少し嫌な奴」として描かれています。
しかし、彼の考え方や、行動は必ずしも間違っているとは言い切れない部分もあります。
競争に勝つことや、正しい箸の持ち方をできないと社会に出てから恥ずかしい思いをすること。
現代の資本主義の世界に生きる我々にとって、最もリスクの少ない考え方、生き方であり、そうあることが幸福であるとも思います。
「二人ともを引き取ります」という良多の提案も、いろんなことを考慮し長期的に考えると、決して間違った道ではないかもしれないなとも思えます。
一方で
一方でリリー・フランキーさんの演じる家族は、とても人間的な家族として描かれています。
しかし、それが絶対的に正しいかというとそうでもないと思います。
難しいところなのですが、子供はのびのびと育つとは思うのですが、競争から降りているように見えるような彼らの生き方は、どこかのタイミングで行き詰まりを感じてしまうことがあるかもしれません。
そんな二つの家族なのですが、最初は考え方が合わない部分もあるのですが、次第に心通わせていくこととなります。
特に、女性同士はお互いに理解し合い、支え会うのが早いです。この辺の描き方も上手いなと思いました。
終盤のあるシーン
映画の終盤に良多がカメラを見て涙を流すシーンがあります。
そこで良多は自分のことを改めて客観的に見て、自分の行動を省みることとなるのです。
このシーンは本当に良かったです。思わず泣いてしまいました。
その後、良多が慶多のところを訪れて映画は終わりへと向かっていきます。
その後どうなったかは決して描かれることはありません。
あくまで見てる側に委ねられるような形で終わっていくのです。
是枝さんの映画はそのような作品が多いような気がします。
明確なメッセージを強要することはなく、見る側に考える余白を与えてくれているのです。
少しずつ父になっていく
女性は体の中で少しずつ子供が大きくなっていくことを感じざるを得ないので、子供が生まれるときには自然に母になると言われています。
それに対して、男性はそうではありません。
少しずつ少しずつ父になっていくのだろうと思います。
『そして父になる』では子供の取り違えという珍しいことを扱っていながらも、男性がいかに父親としての自覚を獲得していくかという普遍的な話にもなっています。
おそらく誰が見ても、何かを考えさせられることは間違いない映画でした。