感想・解説『蛇にピアス:金原ひとみ』若さと肉体改造

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金原ひとみさんの芥川賞受賞作です。

『蛇にピアス』

日本の小説家金原ひとみさんによる著作で、デビュー作品となっている小説です。

第27回すばる文学賞を受賞していて、綿矢りささんの『蹴りたい背中』とともに第130回芥川賞を受賞しました。


2008年には蜷川幸雄さんの監督で、吉高由里子さんと高良健吾さんの主演で映画化もされました。その他、ARATAさん、あびる優さんなども出演しています。

あらすじ

19歳のルイは、ある日訪れたクラブでスプリットタンという蛇のような舌を持ち、刺青をしているアマという男と出会う。

アマの刺青とスプリットタンに興味を持ったルイはシバという男が施術を行う店を訪れる。

そこでルイは舌にピアスを開け、その穴を少しずつ拡張していくことに快感を覚え、次第に肉体改造にのめり込んでいく。


アマと同棲することとなり、シバとも関係を持つこととなったルイは、次第に自分もピアスだけでなく刺青を入れてみたいと思うようになる。

その一方でルイはアマと暴力事件を起こした暴力団のメンバーの死亡記事を目にしてしまい不安を覚えるが・・・。

芥川賞受賞作

金原ひとみさんのデビュー作となる『蛇にピアス』。

初めて読んだのは数年前のことでした。


自分の好きな小説だけでなく、ちゃんとした場で評価されている小説を狂ったように読んでいた時期がありました。

確か、大学4年生の頃だったかと思います。
就職活動が終わるかどうかという時期でした。


日本の文学の歴史において、無視することのできない小説がいくつか存在します。

発行部数とか売り上げとかいう話ではなく、日本文学を語るにおいて外すことのできない作品があるのです。


『蛇にピアス』はまさにそんな小説の一つだと思います。

芥川賞を受賞した当時、その話題性の高さを見ていたわけではなかったのですが、あとあと遡ってみてもそうなんだなという気がしています。

10代の終わりか20歳頃にしか書けない小説

なぜこの小説が、高い評価をされ、たくさんの人の読まれることとなっているのでしょうか。

解説を同じく芥川賞作家である村上龍さんが書いていて、そこにとても的確なことが書かれています。


『小説家は年齢を重ねることによって得ていくものもあるが、失っていくものもある。現実とのヒリヒリするような距離感だ。経済的な余裕や社会的な地位を得ることによって、小説を書くために必要な「ギャップ」や「傷」が生まれにくくなる。〜それでも十代の終わりや二十代にしか書けない小説というものはある。『蛇にピアス』はまさにそのような小説だった。』


この解説にもあるように、小説家はキャリアを重ねていくにつれてテクニックのようなものを身につけていきます。

しかし、そのようなテクニックとは全く違うところから湧き出てくるような、身を削るようにして書かれている作品というものも存在しています。


『蛇にピアス』や『限りなく透明に近いブルー』なんかはまさにそのような小説です。


10代の終わり頃に誰しもが通ってくるような、ある種危険な感覚。

大人として社会の一員となりつつありながらも、「ギャップ」をまだ明確に残しているようなそんな年齢。

そんな年齢の絶妙なある期間にしか書くことのできない小説なのです。

肉体改造というテーマ

この小説では『肉体改造』というあまりないようなテーマが扱われています。


主人公であるルイ、ルイの恋人となるアマ。そして、肉体改造屋として登場するシバという人物。

その3人ともが何かしらの肉体改造をしています。
刺青であったり、割れた舌であるスプリットタン。そしてピアスなどです。


自分の肉体に手を加えたいという感覚は、分かる人には分かるだろうし、分からない人には分からない感覚だと思います。


この小説を読むと、なぜ肉体改造をしたがるのかがなんとなく分かるような気がします。

おそらく、彼らは何かしら不足感を抱えています。
そして、満たされない何かを抱えていてどうすることもできない現実にも直面しているのです。


そんな現実に対し『何かをしたい』。
そして、それは本質的であるほどいい。

肉体改造はまさにうってつけなのかもしれません。

一度は読んでおくべき小説かもしれません

決して長くはなく、読みやすい小説だと思います。

話のテンポも良く一気に読むことができました。


そして、この小説が伝えようとしていることもしっかりと伝わってきます。

デビュー作品には、作家の全てが現れるというようなことを言いますが、この作品には金原ひとみさんの全てが詰まっているようにも思えます。

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