感想・要約『生きづらさについて考える:内田樹』暗い時代をいかに生きるか

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この人の本は相変わらず面白いです。

『生きづらさについて考える』

思想家であり大学教授でもあった内田樹さんによる著作で、毎日新聞出版より出版されました。

発売は2019年8月24日。


新聞や雑誌など様々な媒体に掲載されたエッセイをまとめたものとなっています。

行政や教育、100年時代をいかに生きていくべきかというようなことまで様々なテーマで書かれています。


全5章となっていて、300ページほどの本です。

内田樹さんのエッセイ集

個人的にはとても好きな書き手である内田樹さんの本です。

Amazonで結構前に予約注文していて、そのことも忘れていたのですが、発売日から数日経ってから家に届き読みました。


『生きづらさについて考える』というタイトルにもあるように、現代にはびこっている様々な『生きづらさ』について書かれている本です。

決して明るい話ばかりではありません。
しかし、とても現実に即しているいい本だなと思いました。


第1章は『矛盾に目をつぶる日本人』という章。
特に面白かったのは、知性を憎む日本人という話です。

反知性主義とは、教養のない人のことではなく、知識がある程度はありながら、正当に評価されていないと感じている人がなってしまう。というのは面白い指摘です。

『ある時代における知性の総量は変わらない。変わるのは、それがどの領域に偏るかだけだ。』というのはなかなかの至言・・・。


そして2章は『気が滅入る行政』という主に政治に関する話がまとめられています。

#MeToo運動や、ナショナリズム、レイシズムについての記述がされています。


世界でナショナリズムやレイシズムが亢進しているのは、ある共同体に帰属しているという実感を持ちにくくなったせいだと書かれています。

思わず、なるほどな・・・と思ってしまいました。


何かに帰属しているという意識が薄いからこそ、人は差別をしたりするのです。

確かに差別をすることによって生まれる帰属意識のようなものがあるような気がします。


自分たちと異なっている誰かを生み出すことで、自分たちが属している何かを浮き彫りにすることができるからです。

差別は本質的にそのような弱さから生じているのです。

教育と、令和の時代へ

第3章とされているのが『ウチダ式教育再生論』です。

ここでは内田さんの思う教育についての記述がされています。


内田さんは自分も大学教授であったこともあり、教育についての興味深い話を色々としています。

そして、残念ながら今の日本の大学や、教育制度に対してはあまり楽観的ではなさそうです・・・。


この章では、なぜ日本の研究者がなかなか素晴らしいアウトプットをすることができないのか。

「教育」を株式会社のように扱ってきたことの弊害。
就職活動の末に、なぜ学生たちが従順なサラリーマンとなってしまうのかというようなことが書かれています。


そして、自分が機嫌よくいられる場所を探そうという話は面白かったです。

生きていく上でオープンマインドでいることは大切なことだと述べています。

何かを学ぶにあたり、知らない物事に対して「心を開いている」ことはとても大切なことです。


今持っている知識や経験だけでは理解できない何かにい接することは実はいいことであり、自分の限界を超えるチャンスなのです。


そして、第4章が『平成から令和へ生き延びる私たちへ』となっています。

平成を振り返り、ウチダ式ニッポン再生論というようなことも書かれています。


戦後の日本人のメンタリティに関しての話もあります。


そして日本人にとっての自由とはというところはとても面白かったです。

日本人は、欧米的な自由を本当は望んでいないというのです。

日本人は、外的な干渉を避けることによる自由よりも、集団の中において存在する矛盾や対立を調整し、うまく収まったときに解放感と達成感を感じるのです。

改めて文章として読んでみると、確かにな・・・と思いました。

100年時代を生きる

そして最後の第5章は『人生100年時代を生きる』です。

人生100年という言葉。最近いろんなところで目にするようになりました。

人の寿命が延び、100年生きることが当たり前となったとき、今までになかった問題や弊害が発生し、今までになかった人生設計が必要だというのです。

確かにそうだということは分かるのですが、具体的にどうしていくのかを問われたとき、なかなか難しいものがあります。

どうしていくべきか、明確にはまだわかりませんが、その手助けとなることが書かれていました。

暗い時代を

この本に書かれていることは、決して肯定的なことばかりではありません。

読む人によっては気を悪くしてしまう人もいるかもしれません。


しかし、とても現実のことをしっかりと見つめている本だと思います。

内田樹さんは日本という国をとても愛していて、愛しているがゆえに危機感を感じている人なのでもあると思います。

決して明るい時代とは言えない現代ですが、この本を読めばそんな時代をどう生きるかのヒントを見つけられるかもしれません。

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