
なぜだか、時々こういう映画を観たくなります。
『淵に立つ』
2016年の日本とフランスでの合作映画です。
日本では2016年10月8日に公開されました。
監督・脚本は深田晃司さんでキャストは以下の通りとなっています。
八坂草太郎:浅野忠信
鈴岡章江:筒井真理子
鈴岡利雄:古舘寛治
鈴岡蛍:篠川桃音・真広佳奈(8年後)
山上孝司:太賀
設楽篤:三浦貴大
カンヌ国際映画祭でも上演され、「ある視点」部門にて審査委員賞を受賞しています。
あらすじ
町工場を営む利雄は、妻である章江と娘の蛍と3人で暮らしていた。
夫婦の会話はあまりないものの、波風の少ない日々を送っていた。
そんな家族の元に八坂と名乗る一人の男が現れる。
利雄は古い付き合いである八坂を自分の工場で住み込みで雇い始めることとする。
最初は戸惑っていた章江と蛍だったものの、章江は次第に八坂に好感を持ち始め、娘の蛍もなつき始める。
利雄は過去の何かを八坂と共有しているようだが、その全てを語ることはしなかった。
そんなある日、娘の蛍がいなくなってしまい、公園で蛍を見つけた利雄だったが、そこには八坂の姿があった。
何が起こったのか分からないまま八坂は姿を消し、蛍は重度の障害を背負うこととなってしまう。
そして8年が過ぎた。
八坂のことを探し続ける利雄であったが、手がかりは未だ掴めないでいた。
町工場には新しく孝司という青年が勤め始めていた。
後継者として工場を継ぐことを期待されいた孝司だったが、ある日利雄に自分は八坂の息子だということを告げることとなり・・・。
色々と考えさせられる映画
『淵に立つ』は2016年に公開された日本とフランスの合作映画です。
今回DVDで見たのですが・・・とても暗い話でした。
鈴岡家という3人の家族のところにある日突然刑務所から出てきたばかりの男が現れます。
八坂と名乗るその男は利雄の元で働き始めることとなります。
異物として入り込んできた八坂は、少しずつ馴染んていくかに思えたのですが、ある出来事をきっかけに姿を消すこととなります。
そして8年の時が流れるのですが、八坂の行方は分からないまま、何が起きたのかもはっきりとしないまま映画は終わります。
話としてはすごくシンプルで分かりやすい話です。
しかし、最終的に答えが用意されているわけでもなければ、何かが解決するわけでもありません。
ある意味で余白で溢れた映画となっています。
しかし、その余白を想像するためのヒントはふんだんに散りばめられています。
利雄と八坂とのちょっとした会話や、夫婦の間で敬語を使っている章江と利雄との関係性。
信仰の強い章江と同じようにする娘の蛍だけれど、一人黙々と食事を進める利雄の姿。
蛍が障害を抱えてしまった後の家族の振る舞い。
なぜそういう考えを持ってしまったのか。極端に潔癖となってしまったのか。
そして、八坂が語る自分の犯した4つの過ちの話。
決して言葉的な説明で多くが示されることはありませんが、見ている方は映画の隙間を想像し、考えることとなります。
傷を抱えて家族になった
鈴岡家は、家族でありながら本当に家族と言えたのでしょうか。
八坂が現れるまえまでは家族3人での様子が描かれるのですが、その様子は違和感で溢れています。
まるで家族としての形をとっているだけの他人のようなのです。
そして、八坂が現れ、去っていき、家族には傷だけが残されます。
しかし、終盤に利雄はこんなことを言います。
「あの時俺たちは夫婦になったんだ」と。
とても意味深なセリフです。
二人がどのようにして結婚し、子供を作ることとなったのかは明確には示されていませんが、何かしらの問題があり、それはまだ残っているのだということは分かります。
そして、映画は川辺でのラストシーンへと繋がっていきます。
利雄と章江は別々にではありますが、娘の蛍の夢と幻影を見ます。
そこで観る蛍は必死に生きようとしているのです。
『淵に立つ』とは
映画のタイトルにもなっている『淵に立つ』とは一体どのような意味なのでしょうか。
劇中で一番分かりやすいのは、最後に橋から飛び降りる章江と蛍のシーンでしょう。
しかし、この映画を見るとこの家族は初めから淵に立ち続けているとも見えます。
淵には「容易に抜け出すことのできない苦しい境遇」という意味もあります。
(知りませんでした・・・)
誰が悪い、誰の何が悪いというようなことがあまりはっきりとは示されない映画です。
鈴岡家は普通に暮らしている家族にも見えますが、実は闇を抱えていて、刑務所帰りの八坂が普通に見えてしまう時もあります。
しかし、その八坂が恐ろしく見えてしまうシーンもありますが、肝心のところは明確にはされません。
余白を残し、見る側の想像力に委ねるという点ではある意味で文学的な話とも言えます。
確かに、見終えた後はいい小説を読んだ後のような気持ちになりました。
そして、人生において重要なことは何で、どういう間違いをしないようにしなければいけないかを知ったような気もしました・・・。