
何かの本で存在を知り、面白そうだと思い読んでみました。
なんとも不思議なタイトルの本です。
『プルーストとイカ 読書は脳をどのように変えるのか?』
タフツ大学の教授であるメアリアン・ウルフによる著作です。
2000年に初版が刊行され、小松淳子さんの翻訳による邦版は2008年に刊行されました。
三部構成となっていて、第一部は「人の脳が文字を読むことを学んできた歴史」、第二部は「人間が年を重ねていくにつれて高度化する識字能力の発達について」、第三部は「文字を読むことができない脳とはどううことか(ディスレクシアについて)」となっています。
タイトルのプルーストとは『失われた時を求めて』の著者としても知られるマルセル・プルーストのことです。
そして、イカはそのニューロンがどのように発達し、情報を伝達し合うのかということで神経科学の研究対象とされています。
そのプルーストとイカを読字のプロセスを異なる角度から解明するに適した相補的な手段として扱われています。
本を読むということの歴史から、ディスレクシアに関する話まで、脳科学だけでなく、心理学、言語学、文学、考古学、教育学など、様々な学問領域に関わっている本です。
『マーゴット・マレク賞』を受賞している本です。
文字を読むこととは
『プルーストとイカ』というタイトルのこの本。
タイトルからして、面白そうな本だというオーラのようなものを感じたので、すかさずAmazonで注文して読んでみました。
読んでみて、これは決して簡単な本ではありませんでした・・・。
しっかりとした学術的な本と言えると思います。
しかし、予備知識が必要かというとそんなことはありません。
扱われているテーマは『人が文字を読むこと』という多くの人が日常的に経験していることでもあります。
第一部では、歴史的に人類が文字を読むという行為を必要とし、いかにしてその能力を発達させてきたかという内容です。
第二部では、一人の個人がどのような過程を経て読字という能力を発達させていくかについて書かれている部分。
そして第三部が、人が文字を読めないとはどういうことかという、ディスレクシアについての章となっています。
普段当たり前のようにやっている『文字を読む』という行為。
気がつけば多くの人が自然に習得している能力でありながら、なぜそれができるのかを説明することは実はとても難しいことなのです。
この本では、『文字を読む』という行為がいかに奥深く、一人の個人だけでなく世界に多大な影響を持っているのかということが書かれています。
このような本を読んだのは初めてでした。
読むという行為が人に与えるもの
読むという行為は人に大きな影響を持っています。
中でも物語を読むということは、コミュニケーションの基盤になる能力を形成すると書かれています。
人は物語を読むことを通じて、他者というものを理解し始めます。
自分という殻から足を踏み出し、事故と他者との境界を次第に明確に理解していくのです。
そして、他者にも自分と同じように感情が備わっていて生きているのだと知るのです。
『読字学習は、数々の発達のプロセスに満ちた、奇跡のような物語だ。』
こんな一文が本文中にあります。
一人の人間が文字を読むことを学習していくプロセスはそれ自体が奇跡のようなことであるというのです。
これは、この本におけるとても本質的な部分を表している一文ではないかと思いました。
ディスレクシアとは
最後の第三部ではディスレクシア(読字障害)について書かれています。
ディスレクシアとは簡単にいうと、知的発達には問題がないにも関わらず、読み書きができない学習障害のことを言います。
この本ではディスレクシアの4つの基本的な原因が挙げられています。
そして、エジソンやアインシュタインやレオナルド・ダ・ヴィンチなどもディスレクシアであり、他の才能に溢れているケースも多いといいます。
僕は正直ディスレクシアという言葉も、あまり知りませんでした。
初めて知ったのは村上春樹の『1Q84』という作品の中に出てきた少女がディスレクシアという障害を持っているということでした。
それ以来ディスレクシアという言葉はぼんやりとは知っていましたが、その内実は知ることはありませんでした。
この本にはディスレクシアの原因について詳しく書かれているとともに、それがどういったものなのか。
そして、ディスレクシアの人が持っている才能についても書かれています。
とても面白い本
読み通してみて、本当に興味深い本でした。
読んで良かったととても思います。
現代において、文章を読むことをしなくても情報を得ることのできる方法はたくさんあります。
むしろ、テレビやネットなどの動画や音声による情報の方が主流になっているとも言えます。
しかし、本を読むことでしか得られることのできない情報、そして、本を読むことでしか発達させることのできない脳の部分があるのだということがこの本を読むと分かります。
そして、決してその全てが解明されているというわけでもありません。
この本で扱っているテーマは決して終わることのない深い深いものです。
人間の営みの本質に関わっている部分でもあります。
いろんなところで絶賛されているだけあって、本当にいい本です。