感想・解説『バートルビー:メルヴィル』不思議な寓話的短編

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

何かの本で存在を知って読んでみた本です。

『バートルビー』

アメリカの作家ハーマン・メルヴィルによる短編小説で、1853年に発表されました。
元々の原題は『Bartleby, the Scrivener: A Story of Wall Street』だったのですが、短編集に収録されるにあたり『バートルビー』とシンプルにされたそうです。


メルヴィルの代表作である『白鯨』から約2年後に発表された作品です。

その後のカフカに通ずる不条理性を持った作品であり、デリダ、ドゥルーズなどの思想家にも影響を与えたと言われています。

あらすじ

ウォール街で法律事務所を営んでいる年配の男。
事務所での仕事が増えてきたために、新しく代書人を雇い入れる事とした。

求人募集にやってきたのはバートルビーと名乗る青年だった。
バートルビーはどこか生気を欠いた青年であった。


バートルビーは与えられた筆写の仕事は人並み以上にきっちりとこなすものの、その他の仕事は全て頑なに断るのであった。

「しないほうがいいと思います。」と少しおかしな言い回しを繰り返すバートルビーのことを始めは理解しようとする所長だったが、次第に我慢できなくなりバートルビーに解雇を言い渡す。

しかし、彼はそれでも事務所に居座る事をやめず・・・

作者の言いたいことは

不思議な寓話である『バートルビー』という作品。作者の方メルヴィルの言いたいことはいったい何なのでしょうか?

正直言って、その全ては分かりません…


メルヴィルの代表作といえば、白い鯨との死闘を描いた『白鯨』という作品です。

これは白鯨との闘いを、写実的にドキュメンタリックに描いたものとなっています。

『白鯨』は、かなり長い大作で読むのもなかなか大変な作品です。しかし、世界的に高い評価を受けている作品でもあります。


その約2年後に発表されたのが、この『バートルビー』という短編となるのです。

『バートルビー』は大きな海でクジラと戦う『白鯨』とは打って変わって、とても狭い世界での話です。

ウォール・ストリートにある小さなの法律事務所に新しく雇われた代書人の小さな物語なのです。


作者はこの話に一体何を込めたのでしょうか。

バートルビーは与えられた仕事はきっちりとこなす青年です。

しかし、それ以外の仕事は頑なに断り続けるのです。最後の最後までその姿勢を貫き続け、最終的には彼の死と、配達不能郵便の仕分けという仕事をやっていた彼の過去が少し語られます。

最後の数ページに

バートルビーの過去が語られるのは、最後のわずか数ページです。
そこで彼の配達不能郵便の仕分けという仕事についてのことが少しだけ語られます。

しかし、こここそが実は作者がこの物語を作るに至ったきっかけではないかともも思います。


郵便の中にあった指輪は誰かの指にはめられることなく処分するしかない。
誰かのことを思って送られた紙幣も、誰の空腹を満たすこともなく捨てるしかない。
誰かが誰かに向けた愛の言葉も、決して届くことはなく朽ち果てていく。


バートルビーが過去にしていた仕事はそんな仕事だったのです。
それは誰かが誰かに対して送った『希望』を仕分け、処分する仕事でもあると言えます。

そんな仕事についていたバートルビーは、自分が何かをすることに次第に罪悪感を感じてしまうようになったのかもしれません。

バートルビーの取っている「自分は何もしないほうがいい」という態度もそう考えると理屈が合うような気もします。

『白鯨』からの『バートルビー』

同じメルヴィルの作品でありながら、『白鯨』と『バートルビー』は全く異なる作品です。

広い世界を描いている『白鯨』に対し、『バートルビー』はとても狭い世界の話となっています。


同じ作家からこのような全く異なる作品が生まれていることが個人的にはとても驚きです。

同じ作家の書く小説には、どこか同じ空気感のようなものが感じられる場合がほとんどです。


作家の持っている極めてパーソナルな問題意識に通ずる何かにそれは起因しているがゆえに、あらゆる作品の中に出てきてしまうのです。

この辺りにメルヴィルという世界的作家の力量が伺えます・・・


メルヴィルの作品は『白鯨』と、この『バートルビー』に収録されている作品以外は読んだことがありません。

他の作品も時間を取って読んでみたいものです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*