
最近テレビでも見かける古市さんの本。大学の授業でも使いました。
『絶望の国の幸福な若者たち』
社会学者の古市憲寿さんの著作で、2011年に講談社より出版されています。
現代日本の『若者』について2010年頃に書かれたものです。
様々なインタビューや、研究から現代の『若者』についてざっくり把握できるものとなっています。
(ざっくりという表現は本文にあるものです。『若者』という生ものを扱う以上、すべてを把握することは難しいとのことで。)
今までにされてきた若者論の話から、東日本大震災後の話、インターネットやSNSに関する話など、たくさんの視点から現代日本の『若者』を分析しています。
最後には補章として、俳優の佐藤健さんとの対談が掲載されています。
日本の若者たちは幸福か?
日本の若者たちは幸福なのでしょうか?
これは、この本の主題とも言えるテーマです。
本書は若者論に関する本であり、若者の幸福論についての本でもあります。
そして本の冒頭にすでに著者の答えは書かれています。
「日本の若者はこんな不幸な状況に置かれているのに、なぜ立ち上がらないんですか?」
著者はあるアメリカ人にこんな質問を受けたそうです。
その疑問に対しての答えは、「なぜなら、日本の若者は幸せだからです。」というのです。
僕がこの本を初めて読んだのは、大学3年生だった頃だったかと思います。
僕も古市さんと同じ社会学を専攻する学部に属し、授業の一環で読んだのがこの本でした。
初めて読んだ時、冒頭のこの段階で僕はこの本に引き込まれました。
理由ははっきりとは分かりません。でも、絶対にこの本は面白いだろうという確信と、自分たち若者を肯定してくれたように感じたからかもしれません。
そして、最後までこの本を読んでみてとても強い納得感を感じたのを覚えています・・・。
なんとなく不幸そうな若者たち
若者のイメージの多くは「なんとなく」で規定されているものが多いといいます。
若者の〇〇離れや、若者の内向き志向、地元志向。増えていく非正規労働者や、ワーキンプア、ネットカフェ難民というような言葉。
様々なメディアで若者の不幸イメージを助長するような情報があふれています。
しかし、実際はどうなのでしょうか。
この本には驚くべきデータが示されています。(ソースは内閣府による『国民生活に関する世論調査』)
なんと、20代の若者の約70%は、現在の生活に満足していると答えているのです。
格差社会だ、非正規雇用の増加などと言われながらも、多くの若者たちは今の生活に満足しているというのです。
そうだったのか・・・
そしてこの本の面白いところは、さらにその先へと議論を進めています。
若者たちは大きな不満はないのだけれど、不安を感じている人は多いといいます。
漠然とした将来への不安を抱えているのです。
そして、将来に希望を抱くことができないからこそ「今が幸福だ」ということができるのだとこの本では述べられています。
なるほどな・・・と強い納得感を感じたのはこの部分です。
人は未来が良くなると思えていれば、今を不幸だということができます。
そうすることでも、自分を全否定することにはならないからです。
しかし、逆に未来に希望を抱くことができない場合はどうでしょうか。
未来に希望がないならば、今を楽しむしかありません。今を幸福だというしかないのです。
「人は未来に『希望』をなくした時『幸せ』になることができるのだ」
本の中のこの一文。この一文こそがこの本の本質であり、一番言いたいことのように思えました。
一つの読み物としてとても面白い本です
社会学というと、あまりなじみのない学問かもしれません。
しかし、実際にはそんなことはありません。
社会学は、最も私たちの身近な学問であると思います。
私たちは不可避的に生まれた瞬間から社会に参加しています。
そこには必ず他者との関係性があり、たくさんの他者の中に私たちは生きているのです。
社会学はそんな目に見えない『社会』を扱っている学問です。
だからこそ、実は多くの人の短にある学問なのです。
『絶望の国の幸福な若者たち』は一つの読み物として、本当に面白い本です。
人に面白い本教えてくださいと言われたら、勧めたくなるような本です。
古市さんの考えていることは、個人的にはとても好きです。
他の本もできるだけ手にとって読むようにしています。
そして、古市さんの小説が今2回目の芥川賞の候補となっています。
古市さんの小説はまだ読むことができていません。早めに読みたいとは思っています・・・。