感想・解説『巨大なラジオ/泳ぐ人:ジョン・チーヴァー』アメリカ郊外に暮らす人々の暮らし

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アメリカの小説家ジョン・チーヴァーの短編集です。

『巨大なラジオ/泳ぐ人』

アメリカの小説家ジョン・チーヴァーによる短編集。
村上春樹訳によるもので、2018年11月30日に新潮社より刊行されたものです。

ジョン・チーヴァーは、1900年代初頭から、1980年頃にかけて活躍した小説家です。

アメリカの東部、主にニューヨークの郊外で暮らす人々を描いた作品を多数発表しています。


短編小説の多くは、アメリカの雑誌である『ザ・ニューヨーカー』に掲載されたものです。

1979年にはピューリッツァー賞・フィクション部門を受賞している作家でもあります。


本書に収録されているのは、短編小説18編と、エッセイ2編となっています。
いずれも訳者である村上春樹氏によって厳選されたものです。
(アメリカでは『The Stories of John Cheever』として61編の小説を収録された本も出版されています。)

収録されている短編は、基本的に発表された年代順に掲載されています。
(ぼくの弟 原題『Goodbye,My Brother』だけは例外で、あえて最後に掲載しているとの事です。)

ジョン・チーヴァーという小説家

少し前に村上春樹さんと、柴田元幸さんによる『本当の翻訳の話をしよう』という本を読みました。

その中で紹介され、オススメされていた作家がこのジョン・チーヴァーです。


恥ずかしながら、名前も知らなければ、作品も読んだことのない作家でした。
なので、まず一冊読んでみようと早速Amazonで購入したのがこの『巨大なラジオ/泳ぐ人』という本です。

村上春樹さんの翻訳ということでとても楽しみに手に取り、先ほどようやく読み終えました。


18編の短編と、2編のエッセイが収録されていて、最後には解説という形で村上春樹さんと柴田元幸さんの対談が掲載されています。
(僕のように初めてチーヴァーを読む人にも親切な作り・・・)


タイトルとなっている『巨大なラジオ』と『泳ぐ人』はそれぞれ掲載されている短編小説のタイトルとなっています。

この二つはチーヴァーの代表作だということもあり、タイトルとなっているようです。

アメリカ東部の郊外の人々

本書に収録されている小説のほとんどは、アメリカ東部(ニューヨーク近辺)の郊外で暮らしている人々について描かれているものです。

基本的には裕福な人たちの多い地域なのですが、小説で描かれているのは必ずしも裕福な人たちばかりではありません。


エレベーター係の男が主人公の話(『バベルの塔のクランシー』)や、マンハッタンの高級住宅地で働くブルーカラー労働者の話(『引越し日』)もあります。

そして、『中の上』より裕福な暮らしをしている人たちも、必ずしも無条件で幸福だという風に描かれていないのが面白いところです。

誰しもがどこか『足りなさ』を感じながら暮らしているのだということが分かります。


個人的に気になった作品は『林檎の中の虫』(The Worm in the Apple)という話です。

『林檎の中の虫』とは、英語の慣用句の一つであり、一見幸福に見えるような状況の中にも、不適切なもの、ネガティブなもの、物事を内部からダメにしてしまうような何かが潜んでいることを表している言葉です。


この話に出てくるクラッチマン夫妻は、一見幸福そうに見える夫婦とされています。

しかし、読み進めていくとどことなく不穏な気配が露わになっていくのです。
そして、その不穏さは最後まで明確に示されることはありません。

不穏な雰囲気だけを残しながら、それをどう受け取り、解釈するかはあくまで読者に委ねられているのです。

確かな腕の小説家・・・

今回、初めてジョン・チーヴァーという作家の作品を読みました。
様々な作品が掲載されていて、少し難しいような話もありましたが、確かな腕を持っている作家なのだということはなんとなく分かりました・・・。

小説を『なぜか忘れられない小説』と、『なぜか忘れてしまう小説』とで分けた時、チーヴァーの小説の多くは僕の中では前者になりそうです。


タイトルとなっている『巨大なラジオ』と、『泳ぐ人』も短い話であり、極端に大きな出来事が起こるわけでもありません。

それでも、それぞれの作品の持っている独特の心地よい雰囲気のようなものがあるような気がしました。


そして、最後に掲載されている『ぼくの弟』という短編。
これも忘れることのできない話となりそうです。

これは、斜に構えて、人生を楽しんでいないように見える弟のことが兄は次第に大きなストレスとなってきて、最終的に起こるある出来事へとつながってしまう・・・というような話です。


僕はニューヨークは一度旅行で行ったことがあるだけで、そこで暮らしている人たちの生活を本質的に理解できているとは言えません。

しかし、こういう小説を読むとそこで暮らしている人たちの生活が生き生きと伝わってきます。


そして、日本で暮らしている僕らとも通ずる悩みを持っていたり、同じようなことで苦悩していたりするのです。

これもやはりチーヴァーという作家の腕のなせる技なのだと思いました。

いずれにしろ、僕はこの作家のファンになってしまいました。
機会があれば、他の著作もぜひ読んでみたいです。

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