感想・要約『ふたりの村上:吉本隆明』時代を切り取るふたりの小説家

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二人の村上という作家についての論考を集めた本です。

『ふたりの村上』

詩人であり、思想家である吉本隆明によって書かれた村上春樹・村上龍論の全てを収録した本。

1981年から、1997年にかけて様々な箇所で書かれたふたりの村上論を20作まとめたものとなっている。

吉本氏が57歳から73歳にかけて16年間に渡って書き継がれたもの。

収録されているものは2篇を除き、他の著作にて収録されているものであるが、こうやってまとめられているものは他になく、発表された時間軸の流れに沿って読むことができるようになっている。

(これらの全ての論考を読もうと思ったら、10冊ほどの本を手に取らなければならないとの事。)

2019年の7月に論想社より刊行された。

村上春樹と村上龍

『ふたりの村上』は日本を代表する作家であるふたりの村上について書かれた論考をまとめたものです。

ふたりの村上とは他でもない、村上春樹と村上龍のことです。

どちらも日本国内では絶大な知名度と人気(とある程度のアンチ)を持ち、世界的にその著作が読まれている(特に村上春樹)作家です。

二人とも僕も個人的にとても好きな作家で、本屋でその名前を見つけたら、すかさず買って読んでいる作家です。

(この二人に加え、中村文則さん、平野啓一郎さん、内田樹さんなんかの本は名前買いしています)

特に好きな作品は、『1Q84:村上春樹』と『愛と幻想のファシズム:村上龍』です。

それ以外にも、ほとんど全ての作品を読んでいます。

正反対に見えるふたりの作品

ふたりの作品は正反対であるようでありながら、どこか共通する部分を持っているような気もしています。

そして、ふたりの作品には確実にこの二人にしかかけないであろう、独特の空気のようなものを持っています。それはふたりのどの作品にも共通しています。

村上春樹という作家は、自分自身の内側をとことん掘り下げていく作家です。

自分という人間を掘り下げていけば、多くの人に共通する普遍的な部分に到達することができるだろう。そんな信念のようなものを持って作品を作っています。

一方の村上龍はまた少し違っています。

村上龍は、自分の外部の世界をこれでもかとばかりにドライにクールに観察し、その美しさと残酷さを余すことなく書き記す。そんな作家です。

人間の欲望も、男女の美しさも醜さも、格差の残酷さも社会の不平等さも、村上の龍の手にかかればそのどれもが等価な世界の一部として扱われています。

そんな全く異なる世界の切り取り方をしている村上春樹と村上龍。

しかし、ふたりに共通していることは、時代の空気の本質のようなものを極めて的確に感じとり、異なる形でありながらも物語の形をとって作り上げられていることです。

このふたりの作品は、確かにその時代時代の空気と風俗を感じ取れる何かが含まれています。

だからこそ、この二人は価値ある、意味のある作家としての地位を確立しているのだと思います。

ノルウェイの森

本書で特に印象に残ったのが、村上春樹の『ノルウェイの森』について書かれている部分です。

『ノルウェイの森』といえば、累計1000万部以上を売り上げている村上春樹の代表作で、世界的に広く翻訳され、出版され、映画化もされている作品です。

僕もこの作品を何度か読みましたが、この作品が持つ魅力をどこかうまく理解できずにいました。

この本では、『ノルウェイの森』に関してものとても興味深い論考がなされています。

この作品は、愛の不可能性を描いた作品なのだと言います。

「男女の性的関係を含んだ友情が愛にまですすんでゆくことができず、性的関係を含んだ男女そのものが、愛情の持続(結婚、家庭)にまでいくことができない男女の関係がまともに描かれている」作品であるということが述べられています。

そして、近代文学の中でそのような不可能性をまともに描いたのは初めてではないか。というのです。

そこにこそ、この作品の新鮮さはあり、他にはない魅力となっている。と。

この解説に、僕は妙に納得してしまいました・・・。

『ノルウェイの森』は実はとても複雑な作品です。

「100パーセントの恋愛小説です」という村上春樹自身のによって書かれたキャッチコピーもあるのですが、この作品は実は恋愛の不可能性についての話なのです。

確かに、恋愛の不可能性を描いた恋愛小説は他に読んだことがないような気がします・・・。

他にも

この本では、その他にもふたりのたくさんの著作についての論考が載っています。

村上龍の『愛と幻想のファシズム』や『コインロッカー・ベイビーズ』、村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』、『ねじまき鳥クロニクル』、地下鉄サリン事件に関する『アンダーグラウンド』など、どれも興味深いものばかりです。

両作家のファンの方は、一度読む価値のある本だと思います。

悔やまれるのは、最近の作品についての言及がないことです・・・

『海辺のカフカ』や、『1Q84』、『希望の国のエクソダス』、『半島を出よ』なに関する考察もぜひ聞いてみたかったです。

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