
金原ひとみさんの最新小説です。
『アタラクシア』
2004年に小説『蛇にピアス』で芥川賞を受賞した女子小説か金原ひとみによる長編小説。
2018年10月〜2019年1月に文芸誌『すばる』にて連載された。
単行本は2019年5月24日に集英社より出版された。
『アタラクシア』とは古代ギリシャの言葉で、心の平静な状態のことを表している。
あらすじ
作家である桂と結婚していながらも、愛情を感じることができなくなってしまい、パリで出会ったシェフの瑛人との時間を大切にしている翻訳家の由依。
浮気を繰り返す旦那と、反抗的な息子に怒り、疲れ果てている英美。
落ち目のアーティストである俊輔を旦那にもつ編集者の真奈美は、旦那から逃げるようにして同僚の荒木と不倫を繰り返していた。
20歳の枝里は、出会い系で出会う男との『パパ活』でお金を稼ぎながら、ユウトと名乗る有名ツイッタラーのオフ会に参加する。
それぞれが不安を抱えながらも、生きていく男女。それぞれの関係が絶妙に絡みあいながら、それぞれが心の平静を求めているのだが・・・。
『関係性』を描くのがうまい作家
金原ひとみさんの小説は結構好きで、書店で新しいのを見るとついつい買ってしまいます。
一番有名なのはやっぱり20歳で芥川賞を受賞したデビュー作である『蛇にピアス』でしょう。
しかし、彼女の小説は他にも面白いものがたくさんあります。
金原ひとみさんは人と人との『関係性』を描くのがとてもうまい作家だと思います。
そして、その『関係性』は決して健康的な良好なものではなく、どこか不安定で、破滅的な未来を予感してしまうような、不健全なものばかりです。
今回の『アタラクシア』もそんな関係性ばかりが登場します。
由依は作家の桂を旦那にもつ翻訳家です。
しかし、旦那との関係には希望を見いだすことができずに、現実から逃避するようにしてパリで出会ったシェフの瑛人との関係を深めていきます。
その瑛人のレストランで働くパティシエの英美は、浮気を繰り返す旦那と、反抗的な息子と、文句ばかり言ってくる母親との間に挟まれ身動きが取れなくなっています。
なんとかしなければという怒りと閉塞感を感じながらもどうすることもできずにいます。
そして、俊輔というアーティストの旦那を持つ真奈美もその関係性に悩んでいる女性です。
俊輔は、アーティストとして認められなくなった不安感が怒り変わってしまい、家族に当たってしまっているような状態で、真奈美はどうすることもできずにいる。
アーティストとして認めれることでしか本質的には満たすことのできない旦那の自尊心をどうすることもできずにいます。
選択した人生の先に
他にもこの小説には、不健全な関係性を持っている男女が登場します。
それぞれが自分の幸福を願い、選択をしているにもかからず、人生はなかなかうまくいかないのです。
なぜそうなってしまうのか。誰にもその答えを出すことはできず、物語は進んでいきます。
小説を読んで、人と人との関係は一筋縄ではいかないものだと改めて思いました・・・。
男女だけでなく、家族や仕事場での同僚など、人との関係は決して避けて通ることはできないだけに決して他人事ではありません。
小説に出てくる人物は、みんなどこか不健全な関係性を抱えています。
しかし、そこにはある種の人間性があるようにも思えました。
なぜ人が誤った選択をしてしまうのかというと、それもまた自分自身が幸福を求めているからこそなのかもしれません。
この小説に限らず、金原さんの書く小説に出てくる人物には血が通っています。
人間らしさのようなものがあります。
血が通っているからこそ不安を抱え、時に誤った選択をしてしまうこととなるのでしょう。
だから、僕はこの人の小説が好きで、この人の描く人物が作る物語が好きなのかもしれません。
分かり合うことの難しさ
金原ひとみさんの小説を読むと、いかに男と女が分かり合うことが難しいのかを痛感させられます。
男と女は異なっている生き物で、異なっている生き物であるがゆえに考えていることも異なっています。
女性の考えていることは本当に分からないことばかりです・・・
しかし、金原さんの書く小説は、女性の視点で書かれていることが多く、女性の考えていることの一端をしっかりと示してくれています。
生きているだけではなかなか理解することのできない感情のようなものをはっきりと言葉として、物語として示してくれているような気がします。
こういう本は、男性こそ読むべきではないかと思います。
そして、女性の考えていることを勉強し、少しでも実生活に生かしていくべきではないかと思いました・・・。