感想・解説『愛と幻想のファシズム:村上龍』若い頃の村上龍の野心と思想

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人生で読んだ小説の中で1・2を争うほど衝撃的で、面白いと思った小説でした・・・。

『愛と幻想のファシズム』

日本の小説家村上龍の長編小説。

1984年から1986年にかけて『週刊現代』にて連載された。

1987年に単行本化。1990年に文庫版が発売されている。

あらすじ

世界恐慌を迎えていた1990年代。

カナダで狩猟を生活の一部としていた鈴原冬二(トウジ)は酒場で飲んだくれていた相田剣介(ゼロ)と出会う。

日本に戻ると二人は『狩猟社』という政党を結成する。

トウジは狩猟社の党首としてカリスマ性を発揮し始め、狩猟社の元には学者や官僚、テロリストなどが集結していく。

そして、世界的な多国籍巨大企業グループ『ザ・セブン』。

アメリカなどの大国にも大きな影響力を持っている巨大な企業グループ。

トウジの意思は次第に日本を動かし始め、『ザ・セブン』との対決へと向かっていくが・・・

若い頃の村上龍

初めて読んだのは、大学4年生の時でした。

読書にはまっていて、たくさんの本を無差別的に読んでいた頃、この本を見つけて一気に読破。

こんなに面白い本があったのか・・・と、ある種の感動を覚えたのを覚えています。

村上龍のことは、それまであまり知りませんでした。

カンブリア宮殿などテレビ番組もやっているけど、本職は小説家でたくさんの本を出しているとは…。

最初に読んだのは確か『限りなく透明に近いブルー』というデビュー作。

それから、ほとんど全ての著作を読んだはずです。

中でも特に印象に残っているのが、この『愛と幻想のファシズム』という小説。

この小説には若い頃の村上龍の野心と、思想がふんだんに込められています。

狩猟社の思想とは

物語の中心となっているトウジ率いる『狩猟社』という組織。

その思想は、過激なようでとてもシンプルなものです。

『中途半端な平等が差を生み出し、不幸を生み出した。それならば、弱肉強食、適者生存の狩猟民族的な世界に戻せばいい。』というものです。

確かに今の日本社会はある種の平等が担保されているように思えます。

しかし、決して本質的に平等かというと全くそんなことはありません。

むしろ中途半端な平等の下に、限りなく深い格差が存在しているような気がします。

ある程度の平等は享受できるものの、決して覆すことのできない差が存在しているのです。

『狩猟社』の思想はそんな社会をぶち壊す。というものです。

弱肉強食、適者生存の世界。弱者は淘汰され、強者が生き残るという世界は、野蛮なようで、ある種の納得を生み出しうるものであるとも思います。

狩猟社は最終的に『ザ・セブン』という世界的巨大組織グループに認められるほどの存在となります。

あくまで小説の中でではありますが、彼らの思想が正しいものだということが示されているとも言えます。

決して短くはないけれど・・・

文庫版は500ページの上下巻で、約1000ページ程の小説です。

決して短くはないかもしれませんが、とても面白くスラスラ読めます。

そして、一度は読むべき小説であると強く思います。

僕の生まれる前の1980年代にこんな小説があったなんて、とても驚きです。

そして、その後のサブカルチャーに影響を与えていることは間違いありません。

僕はこの小説を読んでいる最中、『DEATH NOTE』や『新世紀エヴァンゲリヲン』を思い出しました。

エヴァンゲリヲンには、この小説の登場人物であるトウジとゼロと同じ名前のキャラクターが登場したりもしています。

村上龍は、定期的にこのような日本社会に警鐘を鳴らすような小説を書いています。

『希望の国のエクソダス』や『半島を出よ』、最近の『オールド・テロリスト』などもそうです。

どれも、小説として単純に面白く、考えさせられるものばかりです。

村上龍は日本人としては数少ない『強者の思想』を語ることのできる作り手だと思っています。

ゆえに、日本社会では少し淘汰されていっているような気もしなくはありませんが・・・

いずれにしろ、僕は村上龍という人間と、彼の書く文章が大好きです。

これからも本が出ることがあれば読み続けていきたいと思っています。

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