感想・解説『ねじまき鳥クロニクル:村上春樹』少し異なる主人公像

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何年かぶりに読み返しました。

『ハルキムラカミ』的な要素のたくさん詰まった小説です・・・。

『ねじまき鳥クロニクル』

日本の小説家・村上春樹による8作目の長編小説。

1994年4月12日に第1・2部が発売。

1年後の1995年8月25日に第3部が書き下ろしで発売された。

世界中で出版されており、20ヶ国語以上に翻訳されている。

あらすじ

主人公の僕(岡田亨オカダトオル)は妻のクミコとともに平穏に暮らしていた。

僕は仕事を辞め、家事をしながら暮らしていた時、謎の女からの電話が鳴る。

そして、飼っていた猫が失踪したことをきっかけにいろんなことのバランスが崩れ始める。

妻のクミコもある日突然姿を消してしまう。

僕は笠原メイや、加納クレタ、加納マルタなどの不思議な人物との出会いを経ながらクミコの失踪には彼女の兄である綿谷ノボルが関わっていることを突き止めていく。

村上春樹の小説

村上春樹の小説については、今更語るべきことはないかもしれない。

今や、世界中でその名前が知られている日本人の小説家だ。

日本人の現役の小説家の中で、ここまで世界中で認知され、読まれているのは彼だけだ。

この『ねじまき鳥クロニクル』は、1994年に初版が発売された。

そう考えると、もう25年も前のことになるのか・・・。

『ねじまき鳥クロニクル』は『1Q84』に続き、村上春樹の中でもかなり長い部類に入る小説だ。

しかし、物語そのものは非常にシンプルだ。

内田樹の『もういちど村上春樹にご用心』には、村上春樹の小説は共通して原始的な構造を持っていることが書かれている。

『平凡な主人公たちの日常に、不意に「邪悪なもの」が闖入してきて愛するものを損なうが、非力で卑小な存在である主人公が全力を尽くしてその侵入を食い止め、「邪悪なもの」を押し出し、世界に一時的な均衡を回復する。』

という話だ。とても的確に村上春樹小説の持っている構造を言い表していると思う。

思い返してみれば、ほぼ全ての小説がこのような構造をしているのだ。

『ねじまき鳥クロニクル』も例外ではない。

主人公の僕は妻のクミコとともに平穏に暮らしているのだが、ある日その日常は狂い始める。

そして、僕はこの小説における「邪悪なもの」はクミコの兄の綿谷ノボルなのだということを突き止める。

最終的に僕は「邪悪なもの」に立ち向かい、追い出すこととなる。

大筋はこの通りであるのだが、小説にはたくさんの要素が含まれている。

1994から1995年にかけての日本

『ねじまき鳥クロニクル』の主人公の『僕』は今までの村上春樹小説の主人公とは少し異なっている。

それまでの主人公たちは、「やれやれ」と言いながら世界と関わらない態度を示していたのに対し、『ねじまき鳥クロニクル』の主人公の僕は世界と関わり、現実を変えていこうと行動する。

世界と『関わらない」でいるだけでは、現実は何も変わらない。

現実に悲惨な何かが起きてしまった時、傷が伴おうとも世界と関わり、変えていく努力をしなければならない。ということを理解していく。

1995年といえば、阪神淡路大震災が起き、オウム真理教による地下鉄サリン事件が起こった。

エヴァンゲリオン等のアニメが放送されたのもこの時代だ。

社会学的にある一つの『区切り』となっているのが、1995年だ。

村上春樹もこのくらいの年を経て、態度を変えている。そして、彼の書く小説にも変化が現れている。

悲劇的な現実に対し、関わらないという態度は何も力を持たない。

というよりは、悲劇的な現実に不可避的に関わらざるを得なくなってしまうことがあるのが現実で、そうなった時「関わらない」態度では済まされないのだ。

『アンダーグランド』と『約束された場所で』は村上春樹が地下鉄サリン事件の被害者と加害者双方にインタビューしたものをまとめたものだ。

これも中々読み応えがある。

長編だけど、とても読みやすい

『ねじまき鳥クロニクル』は少し長い小説だけれど、文章自体は読みやすく、とても面白い。

登場人物たちもとても個性豊かだ。

主人公の家の近くに住んでいる笠原メイとかつらのアルバイトに一緒に行くシーンがあったり、100ページほど主人公が井戸の中にいるだけというようななシーンがあったりする。

本筋以外の部分もとても豊かな小説だ。

そして、しっかりと当時の文化や風俗も含まれていて、時代の雰囲気を感じ取ることもできる。

村上春樹を読んだことのない人には、あえて『ねじまき鳥クロニクル』や『1Q84』のような長編を読んでみてほしい。

面白さに気がつき、この長さを読むことができれば、他のどんな小説も読めると思えるはずだ。

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