感想・解説『海からの贈り物:アン・モロウ・リンドバーグ』海から受け取って海へと還す

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気になった海外文学シリーズ。

近くの大きめの蔦屋書店で買って読んでみました。

アン・モロウ・リンドバーグ

1900年代のアメリカの飛行家、文筆家

ニューヨーク・パリ間の大西洋単独無着陸飛行に初めて成功したチャールズ・リンドバーグと1929年に結婚。6人の子供をもうけた。

戦後の1955年に書いた『海からの贈り物』がベストセラーとなり、その他いくつかの賞を受けた。

『海からの贈り物』

原題は『GIFT FROM THE SEA』

1955年に出版された。

今回読んだのは吉田健一訳で新潮文庫より出版されているもの。

中身の濃い130ページ

この本は130ページほどの手に取りやすい本だ。

ゆっくり読んでも2時間ほどあれば十分に読みきれるだろう。

しかし、この本に含まれている内容は決して薄くはない。

本書は序から始まり、八つの章からなっている。

それぞれ浜辺や貝、たこぶねなど海に関する名前が章にはつけられている。

ニューヨークに住む飛行家の妻である作者が、女性として生きることとはどういうことかを綴ったものとなっている。

著者のアン・モロウ・リンドバーグがどこかの離島に滞在し、そこで書かれたのが本書だ。

ニューヨークという世界一と言ってもいいほどに騒がしい街の喧騒を離れ、自分自身の内面と孤独に深く向き合うこととなっている。

つめた貝

つめた貝という章では、大人の女性にとって一人になる時間がいかに貴重で、いかに大切なものであるかが書かれている。

結婚し、子供のいる女性が一人になることは容易なことではない。

経済的な問題もあれば、家事や育児の問題もある。

仕事や子育てに疲れた女性にとっては一人の時間を確保するような余裕もない。

しかし、だからこそ一人の時間が重要なのだとリンドバーグは言う。

一人の時にしか湧いてこない或る種の力が確実にあるからだ。

芸術家は想像するために、文筆家は考えを練るために、音楽家は作曲するために、聖者は祈るために一人になることが必要なのだ。

女にとって一人になる時間は、本当に自分を見出すことにつながる。

機械的な意味では、我々はたくさんのものを手にしてきた。しかし、精神的な意味では失ってきているものも多いと著者は言う。

私たちの生活は機械的な意味ではどんどん発展し、楽になっていっている。

しかし、その一方で創造的なことを行う機会は少なくなってきている。

男も女もそれぞれの持っている内面的な力にもっと目を向け、それを育てるべく努力すべきなのだろう。

孤独な島から離れる時

本書は、最後は著者が滞在していた離島を離れるところで終わっている。

その後のことは書かれていない。

しかし、きっと内面的な充足を十分に得たリンドバーグは元の生活に力強く戻っていったに違いない。

本書は、女性はどのようなことを考えているのかというたくさんの示唆に富んでいる。

アメリカの物質主義の話もあれば、結婚に関する話もある。

先に述べた『つめた貝』の章は女性と『ひとりの時間』についての章だ。

そして、それぞれはしっかりと現代にも通底するテーマになっていると思う。

女性でない自分が読んでも色々なことを考えるきっかけとなる本だ。

この本を読むと、どこかの離島でゆっくりと過ごしたくなる。

自分の好きな本をたくさん持って浜辺でゆっくりしたくなる。

それは決して今いる環境からの逃避ではない。

自分という人間の内面と深く向き合い、自分の今いる環境をより愛するためかもしれない。

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