
『白の闇』読みました。
なかなか衝撃的なパンデミック小説です・・・。
ノルウェーブッククラブの選ぶ、世界傑作文学100選にも選ばれている小説です。
『白の闇』
1995年にポルトガルの作家ジョゼ・サラマーゴによる長編小説です。
2001年に邦訳版が出版され、2008年にもNHK出版より新装版が出版されています。
2020年3月には河出文庫より、文庫版も刊行されています。
原題は『Ensaio sobre a cegueira』(ポルトガル語)で、『ブラインドネス』というタイトルで映画化もされています。
著者であるジョゼ・サラマーゴは、1998年にノーベル文学賞を受賞しています。(ポルトガル語圏の国では初の受賞。)
内容紹介
ある町が突然、目の見えなくなる伝染病におそわれた。
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000053622001.html
視界が真っ白になる病気。政府はただちに患者たちの隔離をはじめる。
収容所では、失明者たちの本性がむきだしになり、地獄絵のような世界がおとずれる。
途方もない不条理な場面であらわれる人間の弱さと魂の力が、圧倒的な空想力と美しい旋律で描かれる。。
あらすじ
車に乗って信号待ちをしている一人の男。
信号が青に変わり、車を前に進めようとした時に男は突然失明する。
原因も分からず、それは突然訪れた。
男は突如として白い世界を生きることなってしまう。
その『白の病』は男だけでなく、次第に国中へと感染は広がっていき、街は目の見えない人で溢れてしまう。
そんな状況をなんとかすべく人々は協力し合おうとするのだが、
次第に人たちは本性をむき出しにするようになり、秩序は崩壊していく・・・。
そんな中、なぜか視界を失わずに済んだ一人の女性がいた。
思考実験の話
『白の闇』読みました。
世界傑作文学100選として選ばれている作品を一つ一つ読み進めていて、見つけた作品です。
ポルトガルの作家であるジョゼ・サラマーゴさんによる著作であり、著者はノーベル文学賞を受賞している作家さんでもあります。
この作品はどのようなものかというと・・・
これは作家の想像力で行う、『思考実験の話』。だと思いました。
馴染みある作品で言うならば、『ゴジラ』シリーズや『DEATH NOTE』みたいなものなのかなーとか思いながら読んでいました。
『存在しないものをある(もしくは、当たり前にあるものをない)と仮定し、人間が、世界がどうなっていくのかを描き出す』というような類のものです。
ちょっと前に見た映画『サバイバルファミリー』のような作品にも似ているかもしれません。
突然視力が失われ・・・
この『白の闇』で人々が何を奪われるかというと、それは人間の『視力』です。
信号待ちをしている男性が視界を失ったことを始まりに、国中の人たちが視界を失っていくのです。
原因も分からず、どうすれば解決できるのかも分からない。
人々のフラストレーションは次第に増幅していき、、世界は次第に秩序を失い始めていく・・・。
そんな話です・・・。
視力のない世界
視力を失うことを想像することができるんでしょうか・・・。
現実に目の見えない人はます。先天的な人もいれば後天的な人もいます。
その両者でも感覚は全然異なっているのだとは思いますが、この小説で視界を失うこととなるのは、いわゆる『普通の人たち』なのです。
普通に目の見える人が、理由分からず視界を失っていく・・・。
それも一人だけではなく、国中の人たちが同時にです。
そんな様子を著者であるジョゼ・サラマーゴさんは自身の想像力で描き切っているのです・・・。
一人だけ目の見える女性
そして、この小説の面白いところは物語の途中、目の見える女性が登場します。
この女性はこれまた理由も分からず、視界を失わずに済んでいるのです。
この女性が物語上、重要な存在となっていくのです・・・。
女性は自分は目が見えるのだということを隠そうとします。
『目の見えない人にとって、目の見える他者は強大な力を持っている。』ということに気が付いたのだと思います。
ましてや、国中のほとんどの人が視界を失ってしまった世界において、その力は計り知れません・・・。
国を救い、導くことも、逆に滅ぼすこともできるほどの力を持っているかもしれないです。
女性がそのことを隠そうとしたのは、持っている力が大きすぎるからだと思います。
目が見えるのだということが分かれば、人々はその女性に群がり、徹底的に利用しようとされるかもしれない。
孤立し、全ての人たちの奴隷となってしまうかもしれない。
この女性は目を見えることを隠し、どうすれば人々を救い、導くことができるかを模索していくのです。
難しいけど、面白い小説
決して読みやすい小説ではないかもしれません・・・。
それでもこの本は読者の想像力や、知的好奇心、恐怖心などをこれでもかとばかりに刺激してきます。
登場人物は名前をつけられていなかったりして、それは、視界を失った世界において名前というものがあまり意味を持たないのだということを意図しているかのようにも思えたりして・・・。
これは、人類がたびたび直面してきた『未知の感染症』というものに対する恐怖を描いている作品でもあります。
だからこそ世界で高く評価されていて、たくさんの人に読まれているんだろうなーとかも思いました。